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院長コラムで院長を知ろう!矯正歯科専門医 河合悟が思うこと。

予防と治療 ―― 医療制度の転換点院長コラム

2026/08/01 医療・健康

 先日、数年ぶりに中央区保健所で行われた3歳児歯科健診に従事しました。今回も、時代の変化を強く感じさせられる一日となりました。

 驚いたことの一つは、お子さんを連れて来られた保護者に、お父さんだけというご家庭が何組もあったことです。数年前に担当した3歳児健診では、お父さんの姿を見かけることはほとんどありませんでした。保健所の担当者の方に「お父さんが連れて来られるお子さんが随分増えましたね」と話したところ、「今は父親が子育てを『手伝う』時代ではなく、夫婦が対等に子育てを担う時代になったのですよ」と教えられました。自分が子育てをしていた平成の初めとは、隔世の感を覚えるほどの変化でした。

 もう一つの大きな変化は、子どもたちの口の中でした。この日受診した32名のうち、治療が必要な虫歯があったお子さんはわずか1名でした。そのお子さんも小児歯科に通院中でしたが、恐怖心が強く十分な治療が難しいという特殊な事情があるケースでした。昭和の時代、子どもの虫歯は「国民病」と言われるほど誰にでも見られる病気でした。しかし令和の現在では、虫歯は当時とは比べものにならないほど少なくなり、「虫歯は珍しい病気になった」と感じるほどです。

 しかし、今回私が最も考えさせられたのは、3歳児歯科健診そのものではありません。昭和に作られた医療制度と、令和の医療との間に、大きなズレが生じ始めているということです。

 日本の健康保険制度は、昭和36年に国民皆保険制度が実現して以来、「病気を治すこと」を目的として発展してきました。当時は虫歯も感染症も多く、病気になってから治療することが医療の中心でした。その意味で、この制度は日本人の健康寿命の延伸に大きく貢献し、日本が世界に誇る社会保障制度となったことは間違いありません。

 ところが令和の現在、医療は大きく変わりました。虫歯を削ることよりも虫歯をつくらないこと、高血圧や糖尿病を治療することよりも発症を防ぐこと。医療の中心は、病気になってから治すことではなく、健康を維持し病気を予防することへと少しずつ移り始めています。

 実際、多くの歯科医院では、子どもたちが定期的に受診し、フッ素塗布や口腔衛生指導などを受けています。今回の3歳児歯科健診でも、32名中30名のお子さんが既に歯科医院で継続的な口腔管理を受けていました。保護者の予防意識の向上や歯科医療の充実、さらに福岡市の子ども医療制度など、さまざまな取り組みが現在の低い虫歯罹患率を支えているのでしょう。私も、その意義を否定するものではありません。

 しかし一方で、健康保険制度は本来「治療」を対象として設計されています。

 これは歯科だけの問題ではありません。医科においても健康診断や予防接種など、多くの予防医療は健康保険の対象外です。公費助成が行われているものもありますが、制度全体としては、依然として「治療」を中心に組み立てられていると言えます。
 言い換えれば、「現場」と「制度」の間に少しずつズレが生じ始めているのではないでしょうか。だからこそ、今必要なのは制度を批判することではありません。時代の変化に合わせて制度そのものを進化させることです。

 私は今回、32人の子どもたちの健康な口の中を診ながら、「治療の時代」が終わり、「予防の時代」が始まったことを実感しました。

昭和は、「治療の時代」でした。

そして令和は、「予防の時代」です。

 医療が変わったのであれば、医療制度も変わらなければなりません。国民皆保険制度は、日本が世界に誇る財産です。その財産を次の世代へ引き継ぐためにも、時代に合わせて制度を進化させる勇気が、今、私たちに求められているのではないでしょうか。

 私たちはこれまで、「病気になったら治療する」という考え方で医療制度を築いてきました。しかし、超高齢社会を迎えたこれからの日本では、それだけでは制度を維持することは難しくなります。これから必要なのは、「病気を治すこと」にお金を使うだけではなく、「病気にならないこと」に社会全体で投資するという発想です。

 予防医療にかかる費用は、単なる医療費ではありません。将来の重症化を防ぎ、医療費や介護費の増大を抑えるための未来への投資です。

 今回の3歳児歯科健診で見た子どもたちの健康な口の中こそ、その投資が確かな成果を上げている証しではないでしょうか。

「予防はコストではない。未来への投資である。」

 この発想への転換こそが、これからの超高齢社会を支える医療の原点になると私は考えています。今こそ、日本の医療は「病気を治す制度」から「健康を守る制度」へ。
昭和に築かれた世界に誇る国民皆保険制度を、令和の時代にふさわしい形へ進化させる時ではないでしょうか。

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