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院長コラムで院長を知ろう!矯正歯科専門医 河合悟が思うこと。

矯正治療の灯が消える院長コラム

2020/09/01 医療・健康

コロナウィルスの感染拡大で2020年の夏はコロナ、コロナ、コロナ、夏の海も山も花火もお祭りもなく、ただただコロナだけ人々の記憶に刻まれる寂しい夏、その夏の最中矯正歯科医としては、驚きそして寂しいニュースが飛び込んできました。いずれこんな日が来るかも知れないとは思っていましたが、それは予想よりも早く突然訪れました。

  まず第一報は、8月16日付の日経新聞朝刊の 「歯列や視力の矯正、新興が価格破壊 新技術で参入の記事です。記事によるとスタートアップのドリップス(東京・千代田)は5月、3Dプリンターでつくったマウスピースによる歯列矯正治療費を30万円程度と、従来の3分の1に抑えて始めたとの事です。その方法は利用者が自宅に届いたキットで歯型をとり、同社が歯型をもとに3Dプリンターで造った型から樹脂製マウスピースを作り矯正の度合いに応じて交換するマウスピースを2週間ごとに患者のもとに送るとなっています。一応、歯科医院で検診を受けるとなっていますが、何の検診を受けるのか?矯正歯科治療の知識のない歯科医が検診しても何を検診するのかが不明です。おまけに治療方針や治療目標を歯科医が決めていないので、検診は虫歯が出来ていないか?歯ぐきに炎症はないか?程度でしょうから、矯正治療の進行には役に立ちません。

  そして驚きの第二報はその日の内にやって来ました。クリニックの届いた郵便の中に矯正材料メーカーのシロナサンキンからの手紙です。その中にはシロナサンキンがブラケットを使った矯正治療事業から撤退し、アライナー(マウスピース)矯正などの「デジタル矯正歯科(3Dプリンターを使って矯正装置を作るような)」事業に特化するので、従来の矯正材料の供給が出来なくなるとの通告でした。幸い私は、このメーカーの材料をあまり使っていませんでしたから影響は少ないのですが、このメーカーの矯正材料から撤退は日本の矯正歯科業界にとっては衝撃だったはずです。サイロナサンキンは今はドイツ資本の会社ですが、以前は三金工業と言って日本の老舗歯科材料のメーカーでした。矯正材料メーカーとしても草分けで、ここでしか作っていない日本独自の矯正材料もあるのです。その中には大学の矯正歯科の実習でも使われ、健康保険適応の矯正歯科の装置として収載されている材料もあるくらいです。そのメーカーが従来の矯正材料を作らなくなるのですから、日本の矯正業界にとっては衝撃のはずです。

 この二つの事実から「歯の矯正」が従来のブラケットを使った矯正治療からあたかも新しい技術であるインビサラインに代表されるアライナーあるいはマウスピース矯正に代わっていくと社会一般が認識しつつあるという事が分かります。

  矯正治療の通販(オンラインショッピング)、正しくは矯正装置の通販は 2017年11月の院長コラムに書いていたように2017年にアメリカすでに行われていました。日本では歯科医師法の制限から直ぐには普及することはないと思っていましたが、ついにそれが現実の物となってしまった訳です。アメリカではその後オンライショッピングに加えて、デパートで歯型を取るキットを売っているようですから、矯正装置を歯科と関係ないところで手に入れることが一般的になりつつあるのでしょう。

 いつの間にか「歯の矯正」は、矯正治療を受けるから矯正装置を買う時代へと変わっていってしまっているのです。それが矯正歯科界を取り巻く社会の大きな流れ、うねりです。歯科医や矯正歯科医だけが独占していた「歯の矯正」と言う仕事が、一般企業に解放されてしまい、そこに大きなマーケットが在ると企業が気付いた訳です。そして、「歯の矯正」と言う仕事は歯科医から企業に奪われていこうとしているのです。

 従来は矯正歯科のマーケットを歯科医同士が奪い合っていましたから、認定医だとか専門医だとかの権威付けをして歯科医同士が差別化を計る争いを繰り広げていましたが、マウスピース矯正の登場で矯正歯科の競争原理が大きく変わってしまったのです。言わばマウスピース矯正が市場競争のルールを覆す存在であるゲームチェンジャーだったのです。 しかし、このマウスピース矯正には大きな問題点があるのです。それは従来のブラケットを使った矯正治療に比べて著しく治療効果が低く、従来の基準では満足出来る治療結果を得ることが極めて難しい事です。これは矯正歯科医なら実は誰でもが知っていることです。確実に良好な治療結果緒を得るにはブラケット矯正が優れている事、マウスピース矯正でブラケット矯正と同等な治療結果を得る事が不可能な事は矯正業界では常識です。

 それでも、多くの矯正歯科医はマウスピース矯正を真っ向から否定できません。それは自分自身が、十分な治療結果を得られない事を知っていながらマウスピース矯正の手軽さ、そして患者さんの見えないで治療したいという心の弱みつけ込んで、目先の利益に目がくらみ、マウスピース矯正に手を染めてしまったからです。

 その結果、マウスピース矯正は歯科医の手から離れ、治療ではなく矯正装置と言う物になってしまったのです。患者さん、いや顧客は矯正装置を買ったのであって、治療を受けたのではありませんから、マウスピース矯正を行った結果がどうであれ、販売した企業はその責任を負いません。ドラッグストアで歯ぎしり防止のマウスピースを買って使ってみたが歯ぎしりが止まらなかったと言って、ドラッグストアやマウスピースを作った企業を訴える事が出来ないのと同じ事になってしまったのです。

 つまりマウスピース矯正の普及は矯正歯科医にとっては経済的被害ですみますが、患者さんにとっては、甚大な健康被害をもたらす可能性が大きいのです。矯正歯科医は天に唾を吐いた訳で自業自得ですが、一般の患者さんはそのとばっちりで健康被害を受けるのです。矯正歯科医が企業によるマウスピース矯正の普及で経済的に追い込まれるのは天罰かも知れませんが、患者さんにしてみれば迷惑でしかありません。

 このままマウスピース矯正の普及が続けば、「歯の矯正」は治らない、「歯の矯正」を行ってもまた元に戻ると言われ、「歯の矯正」の社会的信用は失われ、矯正歯科の灯が消えると私は強く危惧しています。

 それほど危機的状況を迎えている矯正歯科の業界、学会なのに多くの矯正歯科医たちは、危機感がありません。矯正治療の技術とは関係がないようはレントゲンのトレースとか、写真の撮り方等々の試験を行い新しい矯正専門医を作ると言って新たな差別化を行おうとして、未だにコップの中の嵐を繰り広げている始末です。本来なら、人々の健康のために歯科医、矯正歯科医が一丸となって治療としての「歯の矯正」、「矯正治療」を守るべき時なのですが、井の中の蛙で社会の大きな変化が見えていないのです。

 私は矯正歯科学会や矯正歯科医の団体に矯正歯科の未来を託せない事を悟りました。私は矯正治療の灯を消さない為に、たった一人で、いや頼もしいスタッフと共にブラケット矯正で良好な治療結果を残し、その治療結果の優位性をWEB上で今まで以上に社会に発信していきます。個人による情報発信が容易になった今だから、微力な私でも社会に影響を与える事が出来るのではと思うのです。矯正治療の灯を消さないために、私は、ブラケット治療の優位性を社会に使えるインフルエンサーになろうと決心しました。

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