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院長コラムで院長を知ろう!矯正歯科専門医 河合悟が思うこと。

矯正治療もオンラインショッピング院長コラム

2017/11/03 医療

アメリカでは中流以上の家庭ではほぼ100%の子供達が矯正歯科治療を受けていると言われるくらいで、世界で一番矯正歯科治療が普及している国です。ですから新しい矯正歯科治療の方法や材料のほとんどはアメリカで生まれます。そこで9月末に慰安旅行を兼ねてスタッフ総出で研修旅行にニューヨークへ行ってきました。

 4年ぶりに訪れたニューヨークでしたが、やはりそこには新しい矯正歯科治療が生まれていました。ニューヨークの大学に通っている息子の友達が、こんな矯正歯科治療がはやっているけどどう思うかと聞かれて知ったのが矯正歯科治療のオンラインショッピングです。早速教えてもらったウェブサイトによれば、オンラインで契約すると歯の形をとる材料が送られてきて、自分で歯の形をとりそれを送り返します。その後メーカーで現在の歯形からパソコンで少しずつ歯を動かしてそれに合わせたアライナーと言うマウスピースのような矯正装置を数個作り、最終的に綺麗に並んだ状態のアライナーが送られてくるのです。これを装着すれば平均6ヶ月で綺麗な歯並びになる謳っています。料金は月$80の24ヶ月払いか、$1,850一括払いで、従来の矯正治療の半額にもならない料金です。

  多くの歯科医師はこのオンライン矯正に対して、こんな誰が作っているか分からないような矯正装置で治る訳がないと言う事でしょうが、私から見れば5,6年前から矯正歯科専門クリニックでも行われているマウスピース矯正(アライナーとかインビサラインもほぼ同じ矯正装置)を行っている歯科医師の治療とさして違わないと思います。違いと言えば歯科医院や矯正歯科院で受けるマウスピース矯正は、歯形を歯科医院で歯科医師もしくは歯科衛生士がとり、オンライン矯正ではそれを自分自身でするだけの違いです。それから先の作業はメーカーがしますので、できあがった矯正装置に大きな違いはないと思います。これで、オンライン矯正と歯科医院で行うマウスピース矯正の治療結果に大きな違いが生まれるとはとても思えません。つまり私の考えでは、もし歯科医院で行うマウスピース矯正で歯並びが改善できる様な場合があるなら、オンライン矯正でも改善できると言う事です。

 大体マウスピース矯正を行っている歯科医師が矯正歯科の専門的な教育、トレーニングを受けているかと言うと大いに疑問です。私のクリニックでも利用している歯科材料の大手通信販売会社のカタログにマウスピース矯正の広告が載っています。それによると、矯正歯科の知識のない歯科医師でもセミナーのDVDを見さえすれば、マウスピース矯正を行うの装置を作ってくれます。そして、それを患者さんに渡すだけで、どこの歯科医院も簡単に矯正治療を始める事ができると謳っています。

 結局、オンライン矯正と歯科医院で受けるマウスピース矯正は装置も治療結果にも大きな違いがないとなれば、費用がマウスピース矯正の1/3くらいしかしないオンライン矯正がはやるのも納得です。いずれ歯科院で受けるマウスピース矯正は、オンライン矯正に駆逐されてしまうことでしょう。矯正歯科治療を見くびった歯科医師が簡単に誰でもできると作り出したマウスピース矯正が、それを考え出した歯科医師を駆逐すると言う皮肉な結果が直ぐそこに来ています。

 歯科医師にとっては死活問題かも知れないマウスピース矯正ですが、こんなに手軽に本当に正常な歯並びなるのなら、患者さんにとっては矯正歯科治療の革命と言っても良いかもしれません。そして私が歯科医師になってから30年以上努力してきた専門的な勉強やトレーニングは何の意味もなかった事になってしまいます。

 しかし、世の中なそんな甘い話があるはずはありません。マウスピース矯正と言われる矯正装置が新しい相矯正装置の様に言われていますが、これと同じ考えで作られたダイナミックポジッショナーと言う装置が私が歯科医師になった当時、最新の矯正装置として発表されていました。当時はパソコンでなく実際に模型を切り刻んでキレイな歯並びを作っていましたから、何段階ににも分けて装置を作るのが難しのでゴムのように柔軟な素材で装置を作る事で一つの装置で最終的な歯並びになる想定でした。しかし、中々治療計画通りにはいかず、いつの間にか歴史上の装置となってしまいました。私は結局、このマウスピース矯正もいずれ、見捨てられる装置だと思っています。

 私が行っているスタンダードエッジワイズ法は1940年頃に確立された矯正治療の方法で、治療の度にワイヤーを患者さんの治療の進み具合に合わせてワイヤーを曲げる手間のいる治療方法です。その後開発された平均的な歯の形を想定して矯正装置を作ってワイヤーを曲げる必要のないストレートワイヤー法(デーモン、アレキサンダー等々の矯正治療方法)もありますが、あくまで平均でしかありませんから、これはレディメイド、既製服です。これに対して患者さん毎にそれぞれに合わせてワイヤーを曲げるスタンダードエッジワイズは言わばオーダーメイドですから、どちらがより患者さん個人にフィットし、良い治療結果が得られるのかは誰にでも分かる事でしょう。

 手軽に簡単、楽をして良い結果を求めたくなるのは人情です。誰もそれを責める事は出来ません。しかし、甘い話には落とし穴があるのも事実です。百歩譲って、もの作りなら手軽で簡単な代わりに結果を妥協するのも良しとするとしても、医療は人様の体、生命を預かる仕事ですから、結果を妥協するような事は決してあってはならない事だと思います。

 ですから私は大変でも、面倒くさくても、治療結果に妥協する事のないように患者さん一人一人にオーダーメイドの矯正治療、スタンダードエッジワイス法の治療をこれからも行っていきたいと思っています。そして患者さんご自身も「簡単で楽な」治療を求めるのではなく、努力や覚悟が必要でもより良い治療結果を一緒に目指して頂ける事を願っています。

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