アメリカの経済発展と格差社会院長コラム
2024/10/01 政治・経済
先月、2019年以来5年ぶりにアリゾナ州ツーソンに行ってきました。ツーソンには、その前年の2018年以来6年ぶりです。今回のツーソン行きは、私が行っているエッジワイズ治療の総本山であるCharles H. Tweed International Foundation for Orthodontic Education and ResearchからThirty-Fourth Biennial Meetingでの講演の依頼を受けての口演発表でした。
いつもツーソン行きは、ロサンゼルスあるいはサンフランシスコ経由でツーソン空港まで行くのですが、今回は偶然ロスに息子が暮らしていますので、ロスからツーソンまで息子の運転で800㎞、10時間余りをかけて車で移動しました。大変でしたが、アメリカ大陸の広さを身をもって実感しました。
5年ぶりのアメリカ、6年ぶりのツーソンは、大きく変わっていました。一番の驚きは、その物価の高さ!朝食をダイナー(ファミレスのようなレストラン)で食べればチップと税金を合わせて40ドルですから5,000円以上します。私が1987年に初めてツーソンの講習会に行った帰りにニューヨークのダイナーで朝食を食べた時はたった5ドルだったので、実に物価は8倍!開いた口が塞がりません。ホテルもツーソンは田舎なので以前なら100ドルもしなかったのに今は2倍以上。ロスに至っては1泊500ドル以下で治安の良い綺麗なホテルを探すのは難しい感じでした。仕方がないので息子にAirbnbで部屋を確保してもらいました。
物価高を挙げれば切りが無く、安いと感じる物は一つもありませんでした。1990年代からコロナ前まで毎年のようにアメリカに行っていましたが、いつもアメリカは安い国と感じていた私にとってはとてもショックで、旅行の楽しみも半減しました。
私が初めてアメリカに行ってから40年弱、アメリカの経済状況は大きく変わってきました。1990年代まではアメリカの製造業は日本をはじめとする国々の輸出攻勢で弱体化し、アメリカの経済状況は極めて苦しい状況でした。2000年代に入り、アメリカは経済活動の重心を製造業から金融業に移したことでアメリカ経済は復活しました。リーマンショックで金融産業は大きな打撃を受けましたが、その後はカリフォルニアを中心としたIT、テック産業がアメリカ経済を引っ張り、現在まで好景気が続いています。
私が初めて見た40年前のアメリカに比べてはるかに豊かになっているはずのアメリカですが、私の目に入るアメリカの街の風景はそんなに豊かになっているとはとても見えませんでした。一番気になったのは、ホームレスの多さと地域による街の綺麗さ、汚さの差が大きいことです。
家や庭の手入れが好きな私を息子がビバリーヒルズの丘の上の高級住宅街見学に連れて行ってくれました。そこには日本では見たこともないような立派な邸宅、手入れされた植栽が連なっていました。しかし、その丘を下り10分も走るとホームレスが歩道に座り込み、ゴミが散らばる荒れた街の光景が広がっていました。
アリゾナの田舎町のツーソンも40年前とは違っていました。40年前はのんびりしていて平和な田舎町で、ホームレスを見かけることはありませんでした。しかし、今では公園の片隅にホームレスのテントがいくつも並んでいました。夜8時過ぎにスーパーのようなドラッグストアに行ったところ、入り口でうるさいほどの大音量の躍動的なクラシック音楽が流れていました。こんな所に似合わぬクラシック音楽がなぜ?と息子に尋ねると、この音楽はホームレスが入り口で寝たりしないように夜になると流すとのこと、つまりホームレスを追い払うためのBGMだったのです。かつては格差が少なくホームレスなんていなかった田舎町でも、ホームレスが問題となるくらいに増えているということです。
好調な経済で一段と豊かになったはずのアメリカですが、実は皆が豊かになったのではなく、一部の人だけが豊かになり、格差は一段と開いてしまったというのが現実のようです。そしてその格差による不満が社会を分断し、大統領選挙の結果さえも認めないというトランプ前大統領支持者を生み出したのではないでしょうか?
それに拍車をかけるのがネット社会、とりわけSNSの発達です。インターネットやSNSでは利用者の過去の閲覧履歴から利用者が興味を持つ情報を次々と提示してきます。利用者は知らず知らずのうちに自分の良いと思う情報、自分の考えに同調する情報ばかりに囲まれるようになり、幅広い意見や情報に接することがなくなります。その結果、自身の考えに固執し排他的になり、格差を助長して社会を分断するようになってしまいます。
格差が広がり、分断した社会はちょっとしたことで暴発するリスクが高まります。アメリカで頻発している銃の乱射事件の根底にもあるのは、格差と分断でしょう。
振り返って日本では、まだアメリカほどの格差や分断は幸いにありませんが、その兆候は様々なところで現れ始めている気がします。誰もが安心して暮らせる社会の実現のためには、これ以上の格差を生じさせない努力が必要です。社会を動かす政治家や富を掴んだ成功者も、家族が安心して暮らせる社会があってこその幸せであることを忘れず、格差是正に積極的に取り組んでもらいたいと思います。そして、私達もネット空間やSNSのこもって偏った情報に引きずられる事なく、広い視野で様々の情報に接して、自分と違う意見にも耳を傾け再考する習慣を付ける必要があると思います。それが安心して暮らせる社会の実現と日本のさらなる発展に繋がるはずです。
いつもツーソン行きは、ロサンゼルスあるいはサンフランシスコ経由でツーソン空港まで行くのですが、今回は偶然ロスに息子が暮らしていますので、ロスからツーソンまで息子の運転で800㎞、10時間余りをかけて車で移動しました。大変でしたが、アメリカ大陸の広さを身をもって実感しました。
5年ぶりのアメリカ、6年ぶりのツーソンは、大きく変わっていました。一番の驚きは、その物価の高さ!朝食をダイナー(ファミレスのようなレストラン)で食べればチップと税金を合わせて40ドルですから5,000円以上します。私が1987年に初めてツーソンの講習会に行った帰りにニューヨークのダイナーで朝食を食べた時はたった5ドルだったので、実に物価は8倍!開いた口が塞がりません。ホテルもツーソンは田舎なので以前なら100ドルもしなかったのに今は2倍以上。ロスに至っては1泊500ドル以下で治安の良い綺麗なホテルを探すのは難しい感じでした。仕方がないので息子にAirbnbで部屋を確保してもらいました。
物価高を挙げれば切りが無く、安いと感じる物は一つもありませんでした。1990年代からコロナ前まで毎年のようにアメリカに行っていましたが、いつもアメリカは安い国と感じていた私にとってはとてもショックで、旅行の楽しみも半減しました。
私が初めてアメリカに行ってから40年弱、アメリカの経済状況は大きく変わってきました。1990年代まではアメリカの製造業は日本をはじめとする国々の輸出攻勢で弱体化し、アメリカの経済状況は極めて苦しい状況でした。2000年代に入り、アメリカは経済活動の重心を製造業から金融業に移したことでアメリカ経済は復活しました。リーマンショックで金融産業は大きな打撃を受けましたが、その後はカリフォルニアを中心としたIT、テック産業がアメリカ経済を引っ張り、現在まで好景気が続いています。
私が初めて見た40年前のアメリカに比べてはるかに豊かになっているはずのアメリカですが、私の目に入るアメリカの街の風景はそんなに豊かになっているとはとても見えませんでした。一番気になったのは、ホームレスの多さと地域による街の綺麗さ、汚さの差が大きいことです。
家や庭の手入れが好きな私を息子がビバリーヒルズの丘の上の高級住宅街見学に連れて行ってくれました。そこには日本では見たこともないような立派な邸宅、手入れされた植栽が連なっていました。しかし、その丘を下り10分も走るとホームレスが歩道に座り込み、ゴミが散らばる荒れた街の光景が広がっていました。
アリゾナの田舎町のツーソンも40年前とは違っていました。40年前はのんびりしていて平和な田舎町で、ホームレスを見かけることはありませんでした。しかし、今では公園の片隅にホームレスのテントがいくつも並んでいました。夜8時過ぎにスーパーのようなドラッグストアに行ったところ、入り口でうるさいほどの大音量の躍動的なクラシック音楽が流れていました。こんな所に似合わぬクラシック音楽がなぜ?と息子に尋ねると、この音楽はホームレスが入り口で寝たりしないように夜になると流すとのこと、つまりホームレスを追い払うためのBGMだったのです。かつては格差が少なくホームレスなんていなかった田舎町でも、ホームレスが問題となるくらいに増えているということです。
好調な経済で一段と豊かになったはずのアメリカですが、実は皆が豊かになったのではなく、一部の人だけが豊かになり、格差は一段と開いてしまったというのが現実のようです。そしてその格差による不満が社会を分断し、大統領選挙の結果さえも認めないというトランプ前大統領支持者を生み出したのではないでしょうか?
それに拍車をかけるのがネット社会、とりわけSNSの発達です。インターネットやSNSでは利用者の過去の閲覧履歴から利用者が興味を持つ情報を次々と提示してきます。利用者は知らず知らずのうちに自分の良いと思う情報、自分の考えに同調する情報ばかりに囲まれるようになり、幅広い意見や情報に接することがなくなります。その結果、自身の考えに固執し排他的になり、格差を助長して社会を分断するようになってしまいます。
格差が広がり、分断した社会はちょっとしたことで暴発するリスクが高まります。アメリカで頻発している銃の乱射事件の根底にもあるのは、格差と分断でしょう。
振り返って日本では、まだアメリカほどの格差や分断は幸いにありませんが、その兆候は様々なところで現れ始めている気がします。誰もが安心して暮らせる社会の実現のためには、これ以上の格差を生じさせない努力が必要です。社会を動かす政治家や富を掴んだ成功者も、家族が安心して暮らせる社会があってこその幸せであることを忘れず、格差是正に積極的に取り組んでもらいたいと思います。そして、私達もネット空間やSNSのこもって偏った情報に引きずられる事なく、広い視野で様々の情報に接して、自分と違う意見にも耳を傾け再考する習慣を付ける必要があると思います。それが安心して暮らせる社会の実現と日本のさらなる発展に繋がるはずです。