シーラントの弊害院長コラム
2024/04/01 医療・健康
昨年、歯科医になって初めて3歳児健診に中央保健所に行きました。以前は虫歯の治療をしない矯正歯科専門医は検診にかり出されることはなかったのですが、歯科医師会の天神地区会員が減少して人手不足になりお役目が回ってきたのです。30名程のお子さんの検診をしたのですが、驚いたことに虫歯や虫歯の治療をした歯は一本も見つかりませんでした。皆さんきちんと歯磨きもできていて、口腔衛生状態も良好でした。この状態であれば、余程生活習慣が乱れない限り一生虫歯で歯を失うことはないだろうと思う程でした。それと同時にこれだけ子供の虫歯がなくなってしまったら、歯科医の仕事が激減して多くの歯科医は失業の憂き目の遭うことになりそうで暗い気持ちにもなりました。
またもう一つの驚きは、3歳児のほとんどが一般歯科あるいは小児歯科に3、4ヶ月に一度定期検診に通院していることでした。これだけ虫歯が無いのに何のための定期検診なのかと言うことと、予防のための検診なら人間ドックと同じように健康保険は適応されないはずなのに健康保険、こども医療証も適応されて受診しているという不可思議な現状に何となく違和感を感じました。
その時は子供の虫歯の減少で歯科医の仕事を確保する為には、以前からの歯科医療だけでなく一歩踏み込んだ治療が必要なのかも知れないと思って終わっていました。ところが最近、それでは済まされない小児の歯科治療の問題に遭遇しました。矯正治療が終わり4ヶ月から半年に一回診察している保定期期間中の患者さんの口腔内清掃をしていた歯科衛生士から、カリエスの疑いがあると呼ばれてよくよく奥歯を観察すると、上顎の第一大臼歯(6歳臼歯)に小さな着色がありました。探針という貼りのような道具で触ってみると、点状の穴が深くあいている様な感じです。そこでレーザー光で虫歯の深さを測るダイアグノデントで調べてみると、何と値は最高値の99を示し深い虫歯である事が分かりました。その一点以外は、着色もなく全く健全なのにそこだけが極端に深い虫歯となっていたのです。
さてその歯を詳しく診ると穴の横の溝に透明なシーラントが残っていますから、その原因は子供の頃に虫歯予防のために処置されたシーラントである事が分かりました。シーラントとは歯磨きが難しい奥歯の溝を歯に接着する樹脂で埋めてしまうことで、虫歯にならないようにする処置です。これだけ聞くととても良さそうですが、そこには大きな問題もあります。シーラントは所詮、樹脂の接着剤ですから永久に外れないハズはありません。時間の経過と共に強度や接着力が落ち、いずれ脱離したり、割れたりします。その時、一気に外れれば問題が起きることは少ないでしょうが、大体接着した物が外れる時は、まず浮き上がり、それから剥がれるのが普通です。壁に貼ったポスターが剥がれて落ちる時でも、まず一部が剥がれて浮き上がりのと同じです。シーラントが外れる時もまず一部が浮き上がります。その時シーランと歯の間に隙間ができ、そこは歯磨きもできませんから汚れが溜まりっぱなしになり虫歯が進行します。そして、シーラントが外れて歯が溝があわわになった時には、そこだけが深い虫歯となってしまっていて、場合によっては新家を取る必要があることもしばしばです。これが、虫歯予防のためのシーラントが深い虫歯を作ってしまうメカニズムです。
シーラントが開発された頃、私は歯科大学の歯科理工学講座で歯の接着剤の研究をしていましたら、接着剤を応用したシーラントの開発の経緯もよく知っています。シーラントが開発された当時は、現在よりも子供の虫歯の罹患率も高く、また現在のように小児歯科も多くなく、的検診で口腔内の衛生状態を管理されている子供の割合も少なかったのです。そこで、口腔衛生管理が行き届かない子供の虫歯を防ぐために開発されたのがシーラントです。シーラントが発売された当初は、虫歯治療でなく予防のための処置ですから、健康保険も適用されないため、余り普及はしませんでした。
ところがある時点でエナメル質初期ウ蝕という病名が作り出され、その初期の虫歯の進行を防止する処置としてシーラントが保険適応となり、いつの間に虫歯になっているいないに関わらず、管理ができているいないに関わらず広くシーラントが行われるようになっていきました。本来、定期検診に行かないような口腔衛生状態が悪い子供のために開発されたシーラントが、定期検診に通い口腔衛生管理が行き届いた子供に処置されるという摩訶不思議な事になってしまったのです。
本来なら、数ヶ月に一度診察を受けていれば、虫歯の原因である砂糖の摂取指導やフッ素の利用で虫歯予防が出来ますし、もし虫歯になっても早期発見できますから、シーラントの必要は全くないはずです。それなのにシーラントをしたことで、虫歯の発見が遅れてしまう、これでは本末転倒と言うほかありません。
少子化対策、子育て世代応援の一環として、今年から福岡市は、高校卒業までの外来診療負担を月額500円としていますから、歯科の受診で何をしてもらっても500円なら、できる事は何でもしてもらった方がお得と思いがちですが、医療は必要最小限が良いと言うことを忘れてはいけません。治療は、処置にしても薬にしても必ず副作用があるものですから、本当に必要な治療だけにとどめておくのがベストなはずです。
定期的に歯科医院に通院して、日々親御さんが仕上げ磨きをしてあげているような管理されたお子さんにシーラントは必要ありませんと言うより、百害あって一利なしです。3歳児健診で分かったようにほとんどの子供が口腔衛生管理できている福岡市で、シーラントの処置を必要とするのは、ネグレクトされいるようなごく僅かなお子さんだけだと私は思っています。
歯科医も健康保険が適応されているから誰にでもシーラントをするのではなく、一人一人のお子さんの状況を見極め、シーラントに潜むリスクを説明した上でシーラントを行うべきだと思います。そしてシーラントした患者さんは、シーラントの下に虫歯ができるリスクがりますから、油断せず歯科医院で定期的な管理が必要な事を忘れないでもらえればと思います。
またもう一つの驚きは、3歳児のほとんどが一般歯科あるいは小児歯科に3、4ヶ月に一度定期検診に通院していることでした。これだけ虫歯が無いのに何のための定期検診なのかと言うことと、予防のための検診なら人間ドックと同じように健康保険は適応されないはずなのに健康保険、こども医療証も適応されて受診しているという不可思議な現状に何となく違和感を感じました。
その時は子供の虫歯の減少で歯科医の仕事を確保する為には、以前からの歯科医療だけでなく一歩踏み込んだ治療が必要なのかも知れないと思って終わっていました。ところが最近、それでは済まされない小児の歯科治療の問題に遭遇しました。矯正治療が終わり4ヶ月から半年に一回診察している保定期期間中の患者さんの口腔内清掃をしていた歯科衛生士から、カリエスの疑いがあると呼ばれてよくよく奥歯を観察すると、上顎の第一大臼歯(6歳臼歯)に小さな着色がありました。探針という貼りのような道具で触ってみると、点状の穴が深くあいている様な感じです。そこでレーザー光で虫歯の深さを測るダイアグノデントで調べてみると、何と値は最高値の99を示し深い虫歯である事が分かりました。その一点以外は、着色もなく全く健全なのにそこだけが極端に深い虫歯となっていたのです。
さてその歯を詳しく診ると穴の横の溝に透明なシーラントが残っていますから、その原因は子供の頃に虫歯予防のために処置されたシーラントである事が分かりました。シーラントとは歯磨きが難しい奥歯の溝を歯に接着する樹脂で埋めてしまうことで、虫歯にならないようにする処置です。これだけ聞くととても良さそうですが、そこには大きな問題もあります。シーラントは所詮、樹脂の接着剤ですから永久に外れないハズはありません。時間の経過と共に強度や接着力が落ち、いずれ脱離したり、割れたりします。その時、一気に外れれば問題が起きることは少ないでしょうが、大体接着した物が外れる時は、まず浮き上がり、それから剥がれるのが普通です。壁に貼ったポスターが剥がれて落ちる時でも、まず一部が剥がれて浮き上がりのと同じです。シーラントが外れる時もまず一部が浮き上がります。その時シーランと歯の間に隙間ができ、そこは歯磨きもできませんから汚れが溜まりっぱなしになり虫歯が進行します。そして、シーラントが外れて歯が溝があわわになった時には、そこだけが深い虫歯となってしまっていて、場合によっては新家を取る必要があることもしばしばです。これが、虫歯予防のためのシーラントが深い虫歯を作ってしまうメカニズムです。
シーラントが開発された頃、私は歯科大学の歯科理工学講座で歯の接着剤の研究をしていましたら、接着剤を応用したシーラントの開発の経緯もよく知っています。シーラントが開発された当時は、現在よりも子供の虫歯の罹患率も高く、また現在のように小児歯科も多くなく、的検診で口腔内の衛生状態を管理されている子供の割合も少なかったのです。そこで、口腔衛生管理が行き届かない子供の虫歯を防ぐために開発されたのがシーラントです。シーラントが発売された当初は、虫歯治療でなく予防のための処置ですから、健康保険も適用されないため、余り普及はしませんでした。
ところがある時点でエナメル質初期ウ蝕という病名が作り出され、その初期の虫歯の進行を防止する処置としてシーラントが保険適応となり、いつの間に虫歯になっているいないに関わらず、管理ができているいないに関わらず広くシーラントが行われるようになっていきました。本来、定期検診に行かないような口腔衛生状態が悪い子供のために開発されたシーラントが、定期検診に通い口腔衛生管理が行き届いた子供に処置されるという摩訶不思議な事になってしまったのです。
本来なら、数ヶ月に一度診察を受けていれば、虫歯の原因である砂糖の摂取指導やフッ素の利用で虫歯予防が出来ますし、もし虫歯になっても早期発見できますから、シーラントの必要は全くないはずです。それなのにシーラントをしたことで、虫歯の発見が遅れてしまう、これでは本末転倒と言うほかありません。
少子化対策、子育て世代応援の一環として、今年から福岡市は、高校卒業までの外来診療負担を月額500円としていますから、歯科の受診で何をしてもらっても500円なら、できる事は何でもしてもらった方がお得と思いがちですが、医療は必要最小限が良いと言うことを忘れてはいけません。治療は、処置にしても薬にしても必ず副作用があるものですから、本当に必要な治療だけにとどめておくのがベストなはずです。
定期的に歯科医院に通院して、日々親御さんが仕上げ磨きをしてあげているような管理されたお子さんにシーラントは必要ありませんと言うより、百害あって一利なしです。3歳児健診で分かったようにほとんどの子供が口腔衛生管理できている福岡市で、シーラントの処置を必要とするのは、ネグレクトされいるようなごく僅かなお子さんだけだと私は思っています。
歯科医も健康保険が適応されているから誰にでもシーラントをするのではなく、一人一人のお子さんの状況を見極め、シーラントに潜むリスクを説明した上でシーラントを行うべきだと思います。そしてシーラントした患者さんは、シーラントの下に虫歯ができるリスクがりますから、油断せず歯科医院で定期的な管理が必要な事を忘れないでもらえればと思います。