人手不足が日本の未来を切り開く院長コラム
2024/03/01 社会問題
コロナが明け経済活動が本格化したことや人の動きが再開し、海外からの旅行者数の回復によるインバウンド等でにわかに人手不足が顕在化しています。私の周りでもファミレスに行ったら席が空いているのに席に案内されず名前をボードに書いて待つように言われ、店内を見回すと接客担当のスタッフが広いお店なのにたった二人、それでは接客担当の仕事はオーダー、配膳、テーブルの片付け等々は沢山ありますから、間に合わないのは仕方ないと納得するしかありませんでした。何とか食事にありついて帰り際にレジで支払いをしながらスタッフに「人手不足で大変ですね」と声をかけたら、もっと驚く返事が。「実は僕たち二人ともここのお店のスタッフじゃないんです。他のお店から応援に派遣されているんです。」と。つまりは、この店舗の接客スタッフは一人もいなかった!と言う事を知って、人手不足も極まれりと驚くやら呆れるやらでした。
高齢化社会の到来で労働人口が減少して人手不足の時代がやってくると前々から言われていましたが、それがこれほどまでに急激にあらわになるとは。その原因はやはりコロナの感染拡大による影響です。本来ならコロナで経済活動がほぼ止まっていた4年間も高齢者は引退していたの対して、社会人となる若者が減っていますから、労働人口は確実に減っていました。しかし経済活動の停止で労働力不足が表面化していなかったのですが、経済活動の再開で4年分の労働力の減少が一気に噴出したわけです。
ですからこの人手不足の原因は日本の年齢構成に起因する根本的な問題ですから、少し経てば経済の活発化も落ち着き人手不足が一段落するのではと言う過去の経験から来る甘い見通しは通用しません。今回の人手不足は、ちょっとやそっとで解消することはないと思います。
しかしこの空前の人手不足、現場で働く人達にとっては千載一遇のチャンスです。先程のファミレスの経営者ならスタッフがいないことには商売になりませんから、時給を上げてでも、あるいは給与を上げ常勤のスタッフを雇用してでも営業を続けたいと思うでしょう。利益が多少減っても、自分の取り分が減っても、お店を閉めて売り上げがゼロになるよりましですから。どこの企業も経営者も現場労働者よりも高い所得を得ていますから、多少所得が減ったところで実は、自分の生活に大きく影響することはありません。ですから人手不足で企業の運営が立ちゆかなくなるとなれば、企業の利益を減らしてでも従業員の賃上げを行い事業の存続を計るはずです。
今までの政府の経済対策は大企業が収益を上げそれによって大企業の従業員の賃上げが行われそれが中小企業の労働者まで広がり経済が活性化するという上からの経済波及効果を狙った物でした(懐かしい安倍元首相が提唱していたいわゆるトリクルダウン)。しかし今回の人手不足は、真逆の末端の現場労働者の賃金上昇が起点となり、社会全体に賃金や物価の上昇が波及していく、言わばボトムアップの経済発展が起ころうとしていると思います。そしてこのボトムアップの経済発展こそが日本経済再生のカギであり、今が再び世界の中で日本が豊かな国になるスタートラインに来ていると思うのです。
国が主導して最低賃金を上げると言っても、時給で数十円が精一杯です。ところが一兆円と言う過去最大の投資で台湾の半導体企業TSMCが半導体工場を建設した熊本県菊陽では、熊本県の最低賃金が時給898円に対して、TSMC関連のアルバイトの時給は、資材管理で時給1,900円、さらに食堂の調理補助などでも、時給1,300円以上です。ニュースを見ているとラーメン屋さんのスタッフを時給2,000円で募集しても人が集まらないほどの人手不足と伝えていました。これこそが、ボトムアップの経済発展の典型です。
日本の経済の再生には輸出による外貨の獲得が重要な外需主導経済と言われています。しかし日本はこの10数年、輸出や観光客の誘致に力を入れてきたにも関わらず、GDP(国内総生産)に占める貿易の割合は30%台で、国際的にみて低い水準です。つまり日本の経済は内需主導の経済であり、中小企業主体の国内の経済活動の活発化の方が大企業が主導する外需よりも経済に与える影響が大きいと言う訳です。ですから、今回の人手不足に端を発したボトムアップ型経済発展が日本の経済再生に非常に有効である事が分かります。
2月12日付の日本経済新聞の特集記事〈物価を考える〉の第一弾「好循環の胎動(1)人手不足で上がる価格「人口減デフレ」の通説覆す」の中では、岩手県の温泉地で人手不足による賃金上昇を例に、今まで通説だった「人口減デフレ」に疑問を呈していました。人口が減ることで需要が減り物余りによりデフレになるとされていたのが、生産人口が減りすぎるとある時点で余剰労働力がなくなる転換点があるのではと述べています。私の考えていた事と全く同じです。
そしてその中の欠員率(人手不足)と賃金上昇率のグラフを見て、私はまた一層ボトムアップ経済発展に強い確信を持ちました。グラフを見ると人手不足が大きいのは、宿泊、飲食、サービス、運輸、郵便、建設、医療福祉、いずれも現場で実際に物を動かす人が必要な職種です。反対に飛び抜けて人手不足感が無いのが金融、保険つまりデジタルで事足りるバーチャルな職種です。今までは、銀行マンや証券マンを筆頭にしたホワイトカラーと呼ばれるデスクワークを主体とした職種が賃金も高く人気の職業で、それを目指して大学に行くというのが勝者のセオリーという感じでした。しかし、デジタル技術の進化で実際の物を扱わないホワイトカラーの仕事はコンピューターが代行するようになり、必要とされる人員は減少の一途を辿っているのです。この流れは、Aiの進歩により一層加速していきます。
そこで問題となるのが教育の問題です。高等教育の必要性が叫ばれていますが、Ai等の高度なデジタル技術を発展させる程の能力を持つ人材は限られていますから、誰も彼もが高等教育を受けて社会を変えるような技術革新を起こせるはずはありません。デジタル技術の発達で技術革新を起こす最先端の研究者やエンジニアも多くを必要としなくなるはずです。それよりも必要なのは、発展したデジタル技術を実際の現場で使いこなす能力を養う教育です。つまり、これからの時代は、知識編重の高等教育よりも昭和の時代に重視された職業訓練教育が再び重視するべきだと思います。そしてそのデジタル知識を持った現場の労働者が評価される時が、もう直ぐそこに来ています。
バブル崩壊以来、長いトンネルの中にいた日本経済がようやくトンネル出口に近づいている気がしてなりません。
高齢化社会の到来で労働人口が減少して人手不足の時代がやってくると前々から言われていましたが、それがこれほどまでに急激にあらわになるとは。その原因はやはりコロナの感染拡大による影響です。本来ならコロナで経済活動がほぼ止まっていた4年間も高齢者は引退していたの対して、社会人となる若者が減っていますから、労働人口は確実に減っていました。しかし経済活動の停止で労働力不足が表面化していなかったのですが、経済活動の再開で4年分の労働力の減少が一気に噴出したわけです。
ですからこの人手不足の原因は日本の年齢構成に起因する根本的な問題ですから、少し経てば経済の活発化も落ち着き人手不足が一段落するのではと言う過去の経験から来る甘い見通しは通用しません。今回の人手不足は、ちょっとやそっとで解消することはないと思います。
しかしこの空前の人手不足、現場で働く人達にとっては千載一遇のチャンスです。先程のファミレスの経営者ならスタッフがいないことには商売になりませんから、時給を上げてでも、あるいは給与を上げ常勤のスタッフを雇用してでも営業を続けたいと思うでしょう。利益が多少減っても、自分の取り分が減っても、お店を閉めて売り上げがゼロになるよりましですから。どこの企業も経営者も現場労働者よりも高い所得を得ていますから、多少所得が減ったところで実は、自分の生活に大きく影響することはありません。ですから人手不足で企業の運営が立ちゆかなくなるとなれば、企業の利益を減らしてでも従業員の賃上げを行い事業の存続を計るはずです。
今までの政府の経済対策は大企業が収益を上げそれによって大企業の従業員の賃上げが行われそれが中小企業の労働者まで広がり経済が活性化するという上からの経済波及効果を狙った物でした(懐かしい安倍元首相が提唱していたいわゆるトリクルダウン)。しかし今回の人手不足は、真逆の末端の現場労働者の賃金上昇が起点となり、社会全体に賃金や物価の上昇が波及していく、言わばボトムアップの経済発展が起ころうとしていると思います。そしてこのボトムアップの経済発展こそが日本経済再生のカギであり、今が再び世界の中で日本が豊かな国になるスタートラインに来ていると思うのです。
国が主導して最低賃金を上げると言っても、時給で数十円が精一杯です。ところが一兆円と言う過去最大の投資で台湾の半導体企業TSMCが半導体工場を建設した熊本県菊陽では、熊本県の最低賃金が時給898円に対して、TSMC関連のアルバイトの時給は、資材管理で時給1,900円、さらに食堂の調理補助などでも、時給1,300円以上です。ニュースを見ているとラーメン屋さんのスタッフを時給2,000円で募集しても人が集まらないほどの人手不足と伝えていました。これこそが、ボトムアップの経済発展の典型です。
日本の経済の再生には輸出による外貨の獲得が重要な外需主導経済と言われています。しかし日本はこの10数年、輸出や観光客の誘致に力を入れてきたにも関わらず、GDP(国内総生産)に占める貿易の割合は30%台で、国際的にみて低い水準です。つまり日本の経済は内需主導の経済であり、中小企業主体の国内の経済活動の活発化の方が大企業が主導する外需よりも経済に与える影響が大きいと言う訳です。ですから、今回の人手不足に端を発したボトムアップ型経済発展が日本の経済再生に非常に有効である事が分かります。
2月12日付の日本経済新聞の特集記事〈物価を考える〉の第一弾「好循環の胎動(1)人手不足で上がる価格「人口減デフレ」の通説覆す」の中では、岩手県の温泉地で人手不足による賃金上昇を例に、今まで通説だった「人口減デフレ」に疑問を呈していました。人口が減ることで需要が減り物余りによりデフレになるとされていたのが、生産人口が減りすぎるとある時点で余剰労働力がなくなる転換点があるのではと述べています。私の考えていた事と全く同じです。
そしてその中の欠員率(人手不足)と賃金上昇率のグラフを見て、私はまた一層ボトムアップ経済発展に強い確信を持ちました。グラフを見ると人手不足が大きいのは、宿泊、飲食、サービス、運輸、郵便、建設、医療福祉、いずれも現場で実際に物を動かす人が必要な職種です。反対に飛び抜けて人手不足感が無いのが金融、保険つまりデジタルで事足りるバーチャルな職種です。今までは、銀行マンや証券マンを筆頭にしたホワイトカラーと呼ばれるデスクワークを主体とした職種が賃金も高く人気の職業で、それを目指して大学に行くというのが勝者のセオリーという感じでした。しかし、デジタル技術の進化で実際の物を扱わないホワイトカラーの仕事はコンピューターが代行するようになり、必要とされる人員は減少の一途を辿っているのです。この流れは、Aiの進歩により一層加速していきます。
そこで問題となるのが教育の問題です。高等教育の必要性が叫ばれていますが、Ai等の高度なデジタル技術を発展させる程の能力を持つ人材は限られていますから、誰も彼もが高等教育を受けて社会を変えるような技術革新を起こせるはずはありません。デジタル技術の発達で技術革新を起こす最先端の研究者やエンジニアも多くを必要としなくなるはずです。それよりも必要なのは、発展したデジタル技術を実際の現場で使いこなす能力を養う教育です。つまり、これからの時代は、知識編重の高等教育よりも昭和の時代に重視された職業訓練教育が再び重視するべきだと思います。そしてそのデジタル知識を持った現場の労働者が評価される時が、もう直ぐそこに来ています。
バブル崩壊以来、長いトンネルの中にいた日本経済がようやくトンネル出口に近づいている気がしてなりません。