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院長コラムで院長を知ろう!矯正歯科専門医 河合悟が思うこと。

答えは口の中にある院長コラム

2023/03/01 医療・健康

大学の教員をしていた30代の頃から「答えは口の中にある」とよく言っていました。その意味は、治療が上手く行かなかった時、今後の治療方針に迷った時、あるいは新しい治療方法のヒントなどは、真剣に患者さんに向きあい診療していると、自然と見えてくる、分かってくることが沢山あると言うことです。若くて、経験が無い時代には、文献を読むとか講習会を受けるとかと言う知識技術の習得方法もあります。しかし歯科医師国家試験に合格して一通り基礎的知識があるわけですから、人に聞くよりも自分で考える方が大切というのが私の考えで、それは今でも変わりません。一般的に言い換えれば「答えは現場にある」と言う事です。

  今でも毎日の診療の中で気づくことが沢山あり、治療方法も日々改善しています。学会や文献での情報収集も行っていますが、日々の診療の中で得られる情報の方がはるかに多く有益だと感じています。

 1997年北海道拓殖銀行や山一証券が破綻した金融危機の年、クリニックの経営も危機的状況に追い込まれました。消費税値上げによる買い控えの影響から矯正治療を受ける患者さんの減少が主な要因だと当時は思っていましたが、今振り返って見ると少子化と女性の社会進出の影響方が大きかったのではないかと思えます。当時クリニックの患者さんのほとんどは小、中、高の子供達で、まだまだ住宅地に矯正歯科が少ない時代でしたからお母さんに連れられて郊外の住宅地から天神にやって来ていました。しかし、時代は私の気づかないうちに刻々と変化して少子化は進み、専業主婦は減り子供をわざわざ遠くの矯正歯科まで連れて行けなくなり、それと同時に歯科医師が供給過剰となり住宅地でも矯正治療を掲げる歯科医院が激増していました。このような経営環境の悪化が進行している最中に消費税の値上げが決定打となり、クリニックの経営が一気に傾いていきました。

 クリニックは何とか患者数を回復して経営危機を乗り切ったのですが、患者数回復の要因は中高年患者さんの増加です。知り合いの一般歯科医から歯周病を持った中高年患者の矯正治療の可能性について相談を受けたことがきっかけでした。治療開始前に文献等を読みあさりましたが、そこに書かれていたのは歯周病を持った患者さんの矯正治療は禁忌で有る、つまり矯正治療は出来ないとされていました。まずは、歯周病の治療を行い歯周病が改善してから矯正治療を始めるべきと書かれていますが、歯並びが悪くて歯磨きも完全に出来ない患者さんの歯周病が完治するはずもありませんので、実際には机上の空論が書いてあると呆れていました。

 それでも患者さんの減少に悩んでいた私としては、手探りで治療を開始するしかありませんでした。治療は細心の注意を払いながら手探りで、今までの経験知識を駆使して一歩一歩進めていきました。その結果、歯並びの改善が進むに従い歯周病の状態も改善され、無事に治療を終えることが出来ました。まさに「答えは口の中にある」だったのです。

 それ以降、クリニックの中高年の患者さんの割合は大幅に増え、60歳代、70歳代の患者さんの治療も日常的に行っています。2000年代初めには中高年患者の矯正治療と題して矯正学会で発表も行いましたがあまり反響もありませんでした。所が2010年代に入ると少子高齢化の影響が矯正歯科界にもいよいよ押し寄せ、中高年患者の矯正歯科についての講習会が盛況になると言う皮肉な現実を見る事になりました。

 中高年患者さんの増加の次にやって来たクリニックの大きな変化は外科的矯正治療、特に下顎が小さい下顎後退症の患者さんの増加です。これにもきっかけがありました。20年ほど前の出っ歯が主訴の男子高校生の治療です。初診時に母親と受診されカウンセリング中にうたた寝をして、母親が何時も寝てばかり、授業中も起きていられないと言われていたのを良く覚えています。出っ歯の状態が著しく矯正治療だけでは正常な咬合に出来ないと思い、下顎骨を前方に移動する外科的矯正治療を選択しました。治療が終了した時お母さんから歯並びが良くなったことよりも、イビキをかかなくなり居眠りをしなくなったことの方が嬉しいと言われたのです。そしてその時ハッとして、レントゲンを見ると治療前は細くて今にも閉鎖しそうだった気道が、治療後は太く、明らかに呼吸がしやすい状態になっていました。以前は気道が狭いために深い睡眠に入る事が出来ない睡眠時無呼吸症候群だったに違いないと気づいたのです。

 そして、この気道の変化を見た時、今まで無理をして治してきた出っ歯の患者さんの気道、呼吸の事が心配になってしまいました。子供の頃に矯正治療を受けた患者さんが将来睡眠時無呼吸症候群を発症するのではないかという心配です。それ以降、出っ歯の患者さんを診察する時は歯並びに加えて、呼吸機能に問題が無いかを注視して診る様にして、睡眠時無呼吸症候群の可能性がある患者さんには検査も行うようにしてきました。その結果、外科的矯正手術を必要とする患者さんが増え、昨年は60名の患者さんの手術を行いその半数が下顎後退症でした。

 下顎後退症の患者さんの発見もやはり「答えは口の中にある」と言うことだったのです。そして、睡眠時無呼吸症候群の外科的矯正治療については10年ほど前から矯正歯科の学会でも話題となる様になりましたが、私は、それよりもずっと前に「口の中」に原因と治療法を見つけていたわけです。

 そんな私が最近「口の中」に見つけた?気づいた?変化があります。それは「虫歯はほぼ根絶された」と言うことです。子供の口の中に治療が必要な虫歯を見つけることが本当に少なくなっているのです。これは厚生労働省の統計調査でも12歳児の虫歯保有率は1歯以下となっていますが、口の中を診た実感はそれ以上に虫歯は少なくなっています。私の感覚では平成生まれは本当に虫歯が少ない感じです。平成生まれで多数の虫歯の治療がある人は、子供の頃の生活環境に何か問題があり砂糖の摂取量が多くかつ歯磨き等がきちんと行われていなかったと言う特殊な事情がある場合がほとんどです。

 昭和の時代は自動販売機で砂糖が沢山入ったジュースが売られていた様に砂糖摂取が多い時代でしたが、平成の健康志向の高まりとともに砂糖が入っていないお茶や水などの飲料が増え、砂糖の代わりにキシリトール等の代用糖を使用したノンシュガーのキャンディーやガムが当たり前になり、砂糖の摂取量が大きく減少しました。虫歯は砂糖から口腔内の細菌が酸を作り唾液が酸性になり、その酸性唾液で歯が溶けることですから、砂糖を摂取しなくなれば虫歯も減るのは当然です。それに加えてフッ素の利用が進みフッ素の効果で歯質が強化され、一層虫歯になりにくくなっていったのです。

 そしてもう一つ同時に私が気づいたのは、特定の歯だけが神経を取る様な虫歯の進行した状態になっている患者さんの多いことです。もしも虫歯になりやすいのであれば、同じ口の環境になるので多数の歯に虫歯が有って良いはずなのに、なぜ特定の歯だけなのか?それは歯科治療が原因としか考えられません。小さな虫歯を発見した歯科医がきちんと治療しなかったために、詰め物をした周辺の密着度が低くそこに歯垢がたまり虫歯が進行し再び治療。それをくり返した結果、特定の歯だけが虫歯が進行した状態になってしまっている、ある意味医療過誤による歯の損傷です。

 虫歯という歯科医師の存在の根源とも言える病気が根絶されつつあるにも関わらず、歯科医師は現在も増え続けています。生きていくために小さな虫歯を見つけ、医療過誤のリスクを冒して治療している現状が「口の中」にあった歯科医師の現実でした。

 「答えは口の中にある」歯科医の未来を口の中に見つけられれば良いのですが、私は虫歯を治療することで成り立ってきた歯科医の仕事は近い将来なくなると言う答えを口の中で見つけた様な気がして背筋がゾッとしました。

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