歯科治療 保険と自費の違いとは?院長コラム
2019/03/02 医療・健康
偶然一般歯科で開業している大学の同級生の診療室に行く機会があり、患者さんの口の中の写真やレントゲンを沢山見せてもらいました。彼は同級生の中でも一二を争うほど真面目で成績優秀だったので、治療も上手とは思っていましたが、その丁寧さには驚かされました。もし自分が一般歯科の治療をしていても、こんなに丁寧にキレイな治療は出来なかっただろうと思うほどの治療技術、治療結果でした。
そしてもう一つ驚いたのは、その丁寧な治療の多くを健康保険を使った治療でも行っていた事です。私の知る限りではこれだけ丁寧に時間をかけて治療していたのでは、とても採算が取れず、経営が成り立たないハズです。「これで良くやって行けるね?」と友人に尋ねると、「自費診療も有るから、経営的に楽じゃないけど何とかやっていける」と言う返事でした。極々少数の歯科医しか出来ないような高度な技術、丁寧な治療をしているのに経営が苦しいとは何か間違っているとしか思えません。
そこで思うのが、やはり健康保険制度の矛盾、行き詰まりです。健康保険は治療内容によって点数(金額)決まっていますから、誰がしても、そして結果に関わらず同じ料金が支払われます。経験を積んだ歯科医が時間をかけて丁寧に治療して良好な治療結果を出しても、未熟な歯科医が大急ぎで治療してすぐに再治療になるような治療結果でも料金は同じなのです。こんな仕事が、他にありますか?真面目にやると損をしてしまう、結果として手抜きをすると儲かるのが健康保険の治療です。
そんな矛盾に憤りを感じていた所、2月21日の読売新聞の読売ドクターに「歯の神経を抜く治療、なぜ半数がトラブル?」と言うタイトルの記事が載りました。虫歯が進行して歯の中心部に有る神経、血管組織(歯髄)が感染した場合に歯髄を取って、その部分を無菌状態にして封鎖する処置についての記事で、治療後に感染が歯を支える骨に起こってしまう事が半数近くあり、この治療(歯内治療)の問題点と解決方法について書いてありました。
記事中には無菌化する為にはラバーダムが必須であるのに手間がかかるので、「必ず使用する」のは一般歯科医のわずか5%、歯科顕微鏡を使った治療が推奨されるが、これも治療時間がかかるので保険診療で使っている歯科医はごく少数と書かれています。しかし、この記事の注目ポイントは治療法の事ではなく、治療費の問題を提起している事です。記事には「保険での設定価格は、1本ざっと6,000円~15,000円(うち自己負担は3割)。ていねいな治療には、合計3~4時間以上もかかる」と書かれています。3時間も4時間もかけて10,000円程度の収入で歯科医院が経営出来るとはどこの誰だって思わないでしょう。この矛盾を見て見ぬふりをしているから歯内療法はトラブルが多く、結果的に歯を失い日本の老人は義歯ばかりになってしまうのです。
ちなみにこの歯内治療をアメリカで受けると歯の根1本あたり100,000円です。奥歯だと3本歯根がありますから歯内療法で300,000円です。そして歯髄を取った歯は脆くなるので歯全体を多くクラウンを被せる事になり、この費用も100,000円以上です。結局、虫歯で神経を取る治療をアメリカで受けると500,000円近くの費用が必要なのです。(ですからアメリカ人は歯にとても気を使い、虫歯予防にとても熱心です。また、低所得者は虫歯がひどくなれば歯内療法などせず歯を抜いて義歯にします。)
何故こんなに日本の歯科治療費は安いのでしょうか?それは、国民皆保険制度が出来た今から50年以上前の昭和30年代の日本の経済状況を考える必要があります。貧しかった日本では、多くの国民が医療を受ける事が難かったので、誰でも医療を受ける事が出来るように国民に相等しく「最低限度の医療」を保証する事を目的として出来たのが健康保険制度なのです。医科の場合は最低限度と言っても生死に関係しますから薬や処置をいい加減なものにする事は出来ませんが、歯科の場合は最低限度は食べる事が出来れば良いので義歯で十分、義歯になるまでは当面痛みがなくて咬めれば良い事が条件です。
つまり、歯を長持ちさせる事は最低限度の医療に含まれないと言う事です。ですからその当時から、詰め物やクラウンの材料は先進国で標準的に使われていた金合金ではなく代用合金と言われる金銀パラジウム合金が使われているのは端的な例です。金合金の使用を前提に出来たシステムで合金材料だけを換えれば当然適合性(密着度)は悪くなり、虫歯が再発する可能性が高くなる事は歯科医なら誰でも知っていますが、健康保険ではそんな事はどうでも良い事、痛くなくなって食事が出来れば良いのですから。
そこで歯科医は健康保険で認められない良い材料を使う診療を提供する事を始めたのが、自費診療の始まりです。そして材料の違いは目に見えてアピールし易いので、歯科の自費診療のメニューは金合金だとかセラミックだとか素材(物)による違いがほとんどです。そんな中、最近「材料」とは違う歯科の自費診療の内容で時々目にするようになったのが歯科顕微鏡を使った歯内療法です。前述の読売ドクターの記事で歯科顕微鏡を使う治療が効果があるように書いてありましたが、顕微鏡で見えるのは歯髄の入り口だけです。歯内療法で一番難しく重要なのは骨の中にある歯髄の先端の見えない部分の処置なので、歯科医の指先の感覚が最も重要ですから時間をかけて丁寧に治療する事が良い治療結果に繋がります。つまり顕微鏡を使う使わないよりも、「手間」をかける事の方が重要なのです。
結局、歯科治療の結果を本当に左右するのは道具や材料ではなく、技術であり丁寧に時間をかけた治療つまり手間をかけた治療です。特に細かい作業を必要とする歯科治療では目に見える物ではなく、目に見えない時間や技術にこそ価値がある事、健康保険は最低限度の医療を保証する物である事を歯科医も患者さんも再認識する必要があります。そして患者さんと歯科医師が共に幸せになる為には、「物」ではなく「手間」に費用を支払う自費診療が重要である事を患者さんに伝える歯科医師の努力が必要だと思います。
私自身は元々健康保険の適用されない矯正歯科治療しか行いませんので、自分の診療の必要性や効果を説明して患者さんに納得してもう努力をずっとしてきました。そして料金も経営が成り立ち、患者さんに受け入れて頂ける価格を自分なりに考えて決めています。健康保険の治療は国任せの部分が多いので楽そうですが制約も多いので、全てが自分で決められ、自分の納得が出来る治療が行える自費診療で良かったと思っています。これからも、自費診療の優位性を活かして、「手間」がかかっても自分自身の納得できる矯正治療を行っていきたいと思います。
そしてもう一つ驚いたのは、その丁寧な治療の多くを健康保険を使った治療でも行っていた事です。私の知る限りではこれだけ丁寧に時間をかけて治療していたのでは、とても採算が取れず、経営が成り立たないハズです。「これで良くやって行けるね?」と友人に尋ねると、「自費診療も有るから、経営的に楽じゃないけど何とかやっていける」と言う返事でした。極々少数の歯科医しか出来ないような高度な技術、丁寧な治療をしているのに経営が苦しいとは何か間違っているとしか思えません。
そこで思うのが、やはり健康保険制度の矛盾、行き詰まりです。健康保険は治療内容によって点数(金額)決まっていますから、誰がしても、そして結果に関わらず同じ料金が支払われます。経験を積んだ歯科医が時間をかけて丁寧に治療して良好な治療結果を出しても、未熟な歯科医が大急ぎで治療してすぐに再治療になるような治療結果でも料金は同じなのです。こんな仕事が、他にありますか?真面目にやると損をしてしまう、結果として手抜きをすると儲かるのが健康保険の治療です。
そんな矛盾に憤りを感じていた所、2月21日の読売新聞の読売ドクターに「歯の神経を抜く治療、なぜ半数がトラブル?」と言うタイトルの記事が載りました。虫歯が進行して歯の中心部に有る神経、血管組織(歯髄)が感染した場合に歯髄を取って、その部分を無菌状態にして封鎖する処置についての記事で、治療後に感染が歯を支える骨に起こってしまう事が半数近くあり、この治療(歯内治療)の問題点と解決方法について書いてありました。
記事中には無菌化する為にはラバーダムが必須であるのに手間がかかるので、「必ず使用する」のは一般歯科医のわずか5%、歯科顕微鏡を使った治療が推奨されるが、これも治療時間がかかるので保険診療で使っている歯科医はごく少数と書かれています。しかし、この記事の注目ポイントは治療法の事ではなく、治療費の問題を提起している事です。記事には「保険での設定価格は、1本ざっと6,000円~15,000円(うち自己負担は3割)。ていねいな治療には、合計3~4時間以上もかかる」と書かれています。3時間も4時間もかけて10,000円程度の収入で歯科医院が経営出来るとはどこの誰だって思わないでしょう。この矛盾を見て見ぬふりをしているから歯内療法はトラブルが多く、結果的に歯を失い日本の老人は義歯ばかりになってしまうのです。
ちなみにこの歯内治療をアメリカで受けると歯の根1本あたり100,000円です。奥歯だと3本歯根がありますから歯内療法で300,000円です。そして歯髄を取った歯は脆くなるので歯全体を多くクラウンを被せる事になり、この費用も100,000円以上です。結局、虫歯で神経を取る治療をアメリカで受けると500,000円近くの費用が必要なのです。(ですからアメリカ人は歯にとても気を使い、虫歯予防にとても熱心です。また、低所得者は虫歯がひどくなれば歯内療法などせず歯を抜いて義歯にします。)
何故こんなに日本の歯科治療費は安いのでしょうか?それは、国民皆保険制度が出来た今から50年以上前の昭和30年代の日本の経済状況を考える必要があります。貧しかった日本では、多くの国民が医療を受ける事が難かったので、誰でも医療を受ける事が出来るように国民に相等しく「最低限度の医療」を保証する事を目的として出来たのが健康保険制度なのです。医科の場合は最低限度と言っても生死に関係しますから薬や処置をいい加減なものにする事は出来ませんが、歯科の場合は最低限度は食べる事が出来れば良いので義歯で十分、義歯になるまでは当面痛みがなくて咬めれば良い事が条件です。
つまり、歯を長持ちさせる事は最低限度の医療に含まれないと言う事です。ですからその当時から、詰め物やクラウンの材料は先進国で標準的に使われていた金合金ではなく代用合金と言われる金銀パラジウム合金が使われているのは端的な例です。金合金の使用を前提に出来たシステムで合金材料だけを換えれば当然適合性(密着度)は悪くなり、虫歯が再発する可能性が高くなる事は歯科医なら誰でも知っていますが、健康保険ではそんな事はどうでも良い事、痛くなくなって食事が出来れば良いのですから。
そこで歯科医は健康保険で認められない良い材料を使う診療を提供する事を始めたのが、自費診療の始まりです。そして材料の違いは目に見えてアピールし易いので、歯科の自費診療のメニューは金合金だとかセラミックだとか素材(物)による違いがほとんどです。そんな中、最近「材料」とは違う歯科の自費診療の内容で時々目にするようになったのが歯科顕微鏡を使った歯内療法です。前述の読売ドクターの記事で歯科顕微鏡を使う治療が効果があるように書いてありましたが、顕微鏡で見えるのは歯髄の入り口だけです。歯内療法で一番難しく重要なのは骨の中にある歯髄の先端の見えない部分の処置なので、歯科医の指先の感覚が最も重要ですから時間をかけて丁寧に治療する事が良い治療結果に繋がります。つまり顕微鏡を使う使わないよりも、「手間」をかける事の方が重要なのです。
結局、歯科治療の結果を本当に左右するのは道具や材料ではなく、技術であり丁寧に時間をかけた治療つまり手間をかけた治療です。特に細かい作業を必要とする歯科治療では目に見える物ではなく、目に見えない時間や技術にこそ価値がある事、健康保険は最低限度の医療を保証する物である事を歯科医も患者さんも再認識する必要があります。そして患者さんと歯科医師が共に幸せになる為には、「物」ではなく「手間」に費用を支払う自費診療が重要である事を患者さんに伝える歯科医師の努力が必要だと思います。
私自身は元々健康保険の適用されない矯正歯科治療しか行いませんので、自分の診療の必要性や効果を説明して患者さんに納得してもう努力をずっとしてきました。そして料金も経営が成り立ち、患者さんに受け入れて頂ける価格を自分なりに考えて決めています。健康保険の治療は国任せの部分が多いので楽そうですが制約も多いので、全てが自分で決められ、自分の納得が出来る治療が行える自費診療で良かったと思っています。これからも、自費診療の優位性を活かして、「手間」がかかっても自分自身の納得できる矯正治療を行っていきたいと思います。