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院長コラムで院長を知ろう!矯正歯科専門医 河合悟が思うこと。

職人を育てる院長コラム

2018/09/04 社会問題

 8月30日の西日本新聞朝刊に「職人の働き方改革は…徒弟制はブラック?」と言うタイトルの記事が掲載されました。福岡市の有名洋菓子店が仕込み作業や菓子作りの練習で長時間拘束が常態化し「ブラック企業」だと内部告発があったことに端を発した記事でした。告発者によればパティシエはその午前6時には出勤し、閉店後も翌日の仕込みに着手。帰宅は午後9~10時ごろになり、残業は毎月130時間以上で残業代もきちんと支払われいないとの事です。これに対して新聞社の取材に経営者は、「未熟なパティシエは菓子作りに時間がかかる。腕を磨くために機材のそろう店に残り、閉店後にケーキ作りを練習することもある。」一人前の職人を育てるためには長時間労働も仕方ないと答えています。そして「昔の修業はもっと大変だった。早く家に帰りたいなら、パティシエを目指さなければいい」と言う半面で「こんなことなら、もう店をやめようかとも思います」と言いているのを聞くと、職人を育てる事の難しさが伝わってきました。

 この新聞記事に対してダイアモンドオンラインに”徒弟制的修業論が「頑張っても報われない」時代にまではびこる愚”という記事が配信されました。それによれば、オーナーが修業を乗り越えて自分の店を持ったという成功体験から指導する立場になった今、同じように若いパティシエを使っている。しかし人口減少で菓子市場が縮小していく将来において、若いパティシエはもう自分の店など持つことはできない。だから「その修業はもういまの時代には通用しないですよ」と誰もが言えるようになった時、初めて我々は「働き方改革」の第一歩を踏み出すことができると書いています。

 ダイアモンドオンラインの記事を読んで私が感じたことは、「やっぱり修行をして技術を身につけたことがに人には、技術を習得すると言う事がどれだけ難しいのかが分からない。」という事でした。メディアでの仕事は知識があればできる事ですから、本を読むなりパソコンで情報収集するなり、今では外出先でスマホでも知識や情報を収集できますから、効率的に無駄なく一人前になっていけるでしょう。(これについては2005年12月の院長コラム「知識(knowledge)と技術(technique)」にも書いています。)

 しかし、手仕事、技術を身に身に着けるには失敗をくり返す事が避けられませんから、長い時間と材料を無駄が必要となります。私も大学を卒業して矯正歯科の道を目指し、膨大な時間と材料の無駄を使い治療技術を身につけた職人です。当時、無給医局員で生活費を稼ぐため大学での勤務のアルバイトをして家に帰り着くのが夜10時過ぎ、それから妻と二人座敷机に迎え合わせに座ってワイヤーを曲げる練習をくり返していました。何百本、何千本曲げたか分かりませんが、一定時間内に毎回同じように色々な太さのワイヤーを曲げに曲げていました。(時間は自分で都合すれば良いですが、高価なワイヤーを大学から支給されたのがお金のない私達には大いに助かりました。)

 そんなことは昔のことと言われそうですが、今でも、日本だけでなく技術の習得には時間と無駄が付きものと分かる例が他にもあります。私の息子は最近、ニューヨークの大学の建築デザイン科を卒業しましたが、在学中は図面を書き、パースを描き、模型を作ると言う全て手作業で作品を作り上げる毎日でした。授業後、自宅でほぼ毎日深夜まで作業をしないことには作品はできあがりませんから、膨大な時間を費やしていました。当然それに費やす材料の費用もバカになりません。息子によれば、アメリカで建築を学んでいる学生は皆そんなもん作品が出来ていなければ評価はゼロだから、文系の学部とは全く違うと言っていました。

 世界中どこでも今も昔も技術を身につけると言う事は知識を身に着ける事の何倍も時間と無駄がいるのです。苦労して技術を身に着けた職人、技術者は、技術を身につけるには多くの時間と材料の無駄が必要な事を知っていますから、この洋菓子店のオーナーの苦悩がよく分かると思います。しかし、時代とともに苦労して技術を耳につけた職人、技術者の数は減ってきていますし、職人の情報発信力はダイヤモンドオンライン記事を書いたメディアで活躍する人に比べて劣るのは当たり前ですから、この洋菓子店のオーナーのような職人の育て方は時代遅れと否定されるのが社会の主流となっています。

 では、職人を育てるのにはどうすれば良いのでしょうか?息子のように学校で授業料を払い、材料費も自己負担で技術を身につけるというのも一つの方法ではありますが、それだと今まではお金はなくとも努力すれば一人前の職人になれたのに経済的な理由で職人の道を狭めることになります。ですから、今の徒弟制度を合理的に改革し、仕事と修行、練習を出来る限り透明に区別する職人養成システムを作るべきでしょう。

 例えば、洋菓子店であれば通常の勤務時間の後、修行を望む人には指導と場所と材料の費用を負担し店側はできあがった菓子を店側が買い取ると言う契約すれば良いのではないでしょうか?これなら残業とはなりませんし、修行をして一流のパティシエを目指さない人は通常の業務をこなせば良いだけですから。洋菓子店で働くパティシエも一人一人目指す所が違うはずですから、それぞれが必要とする修行をシステムを作るのです。

 そして、もう一つ大切な事は高い技術を持つ職人をもっと評価する事が重要です。例えばこだわっているといっても工場で機械で大量生産したコンビニのケーキが2~300円なのに、洋菓子店のパティシエが手作りしたケーキが5~600円で2倍の違いしかありません。コンビニスイーツはコスト計算して適正価格をはじき出していると思いますから、職人が使った時間を考えれば洋菓子店のケーキは1,000円を超えてもおかしくないように思えます。

 結局、最初の新聞記事の若いパティシエの過酷とも言える行動環境を作っているのは、実は職人の技術を正当に評価していない消費者である私達なのかも知れません。これからも職人さんが心を込めて手作りした優れた道具やおいしいお菓子を絶やしたくないなら、社会全体がもっと、もっと、手仕事、技術を高く評価していく必要があるのです。具術への高い評価、技術に対する高い対価の支払いが職人をし立てることになる事を忘れてはいけません。

 最後に矯正歯科の領域でも技術の習得を必要としない矯正装置(インビサラインのような矯正装置マウスピース矯正やワイヤーのベンディングを必要としないストレートワイヤーテクニック等々)が幅をきかせるようになってきていますが、私はやはり技術にこだわり、患者さん一人一人のためにワイヤーを曲げ、調節していく言わばカスタムメイドの矯正装置で最高の治療結果を目指していこうと思いっています。

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