歯科医の悲哀院長コラム
2017/09/02 医療・健康
8月29日の読売新聞に「歯科医の機器「使い回し」対策進まず…患者ごと交換・滅菌すれば費用多額」と言うタイトルの記事が載っていました。この記事の内容とほぼ同様な記事は今年の春にもやはり読売新聞に載り、歯科医の間でも話題になっていましたし、日本歯科医師会からも会員である歯科医師に情報が提供されていました。
記事は歯を削る時に使用するハンドピースという器械を本来患者さん毎に滅菌したハンドピースに交換するべきなのに、交換を行わず薬品で済ましている歯科医院が多く感染の危険があると指摘しています。厚生労働省の日本歯科医師会会員1,000人に行っアンケート調査によると「患者ごとに交換」が52%だったのに対し、「感染症患者とわかった場合に交換」「血液が付いた場合などに交換」「消毒薬で拭く」の交換しない歯科医も半数近くいました。
感染対策の重要性は歯科医師なら誰でも十分認識しているのに、なぜ患者さん毎のハンドピースの交換が行われないのでしょうか?その原因は一重にコストの問題です。ハンドピースの滅菌の手順は使用後に洗浄し乾燥させた上で滅菌パックと言われる袋に入れて、高圧蒸気家滅菌器(オートクレーブ)で滅菌するのですが、これの作業に要する時間は1時間以上です。これを診療時間中にする事は難しいので診療後に行う事になりますから、結局一日に歯を削る治療を行う患者さんの人数分のハンドピースが必要になります。ハンドピースの価格は10~20万円、それを小さな歯科医院でも20本近く購入し、その上熱による滅菌でハンドピースも寿命も短く1年もすれば全て交換する必要があります。それに加えて、滅菌作業に関わる人件費も考慮に入れるとハンドピースを患者さん毎に交換する事で発生するコストは零細企業である歯科医院にとっては死活問題と言っても過言ではありません。
感染対策が重要なのは分かっていますが、どこまで追究するのか見極めないと際限のないコストがかかってしまいます。怪我をして外科の外来で診察を受け薬を付けてもらうのと、手術が必要になり手術室で処置を受ける時を想像して見て下さい。外来なら医師や看護師は白衣を着てグローブをするくらいですが、手術室なら滅菌した手術着、ゴーグルにグローブ、履き物も滅菌した手術室専用の靴という出で立ちです。その時々で必要とされるレベルの清潔さを保っているのです。
さあ、そこで歯科における感染対策について考えてみましょう。歯科は雑菌の多い口の中での処置ですから、使用した器具は全て雑菌で汚れていまいますから清潔を保つ非常に大変です。おまけに内科と違って診察するだけもミラーやピンセット等の器具を使いますから消毒の作業は膨大になりますから、直接血液で汚染される可能性が少なく、かつ高価なハンドピースは薬液消毒等の簡単な消毒で済ませていたのです。しかし肝炎ウィルスなどが薬液消毒では死滅しないために、オートクレーブなどによる滅菌が必要性が叫ばれるようになってきたのです。
しかし、健康保険で支払われる歯科の治療費に滅菌にかかる費用が十分算定されているとは思えません。端的にそれが分かるのは歯科と医科の初診料と再診料の差です。医科の初診料、再診料はそれぞれは2,820円と720円に対して歯科は2,340円と450円で、初診料で480円、再診料で270円歯科の方が低いのです。机とペンだけで診察できる内科の方が、診察するだけでもミラーやピンセットなの滅菌が必要な歯科よりも初診料、再診料共に高いこの現実、結局健康保険制度ができた昭和30年代当時のいい加減な感染対策を前提とした保険制度のがそのまま引き継がれているのです。
ちなみに広島県歯科医師会の試算ではハンドピースの滅菌を含む院内感染対策費が患者さん1人当たり1,058円となっていますから、健康保険で支払われる初診料や再診料では大赤字です。この現状で歯科医に院内感染症対策を徹底させることは、「死ね」言っているも同然、厚労省のパワハラと言っても過言ではありません。
その他にも歯科の保険診療には理不尽なことが数多くあります。医科では外科的処置が減少し投薬が治療の中心ですが、歯科ははに自己再生能力がないために処置が治療の主体ですから治療に使う器具、機材が沢山必要です。歯を削るような切削器具は、メスと同じように本来使い捨てが基本ですが、保険診療でそんなことをしていたら、これも大赤字で歯科医医の経営は成り立たないと言われています。私は矯正歯科治療しかしないので今回改めて調べてみると例えば虫歯を削するダイヤモンドバーは600~1,000円なのに歯を削る保険の費用は1,360円にしかなりません。また私が虫歯の治療で一番大切でだけど、一番難しいと思っている神経を取って神経の入っている根管という管を削って拡大する時に使うリーマーという針のような器具は細い物から太い物まで6本前後使うのですがこれの一セットは約2,000円するのに保険の費用は2,280円です。常識的に考えてこれでまともな治療が出来るはずはありません。だから、歯科医師は器具を消毒して使い回しているのです。その結果、細いリーマー劣化して折れて根管の中に残ってしまうと言うようなトラブルも珍しく有りません。
ちなみにアメリカでは感染や器具の破損を防ぐため器具は全て使い捨てディスポーザブルが基本です。ですから治療費は当然高額です。先程の根管の治療は拡大した根管を無菌の状態にした上で樹脂で密閉して完了ですが、アメリカでこの処置は1,000ドル以上の費用がかかります。それなのに日本の健康保険で支払われる費用は10,000円にもなりません。その差は10倍以上、同じ治療が受けられるハズがないと考える普通でしょう。
しかし、アメリカでは国民皆保険制度がないので低所得層は虫歯になれば高額な治療費が必要な根管治療など行わず抜歯して入れ歯を作ります。口の中の状態も経済状態と同じように格差が顕著なのが格差社会が極まったアメリカです。
日本の健康保険の歯科治療はそこそこの治療費でそこそこの治療、それで満足するのか、費用を負担してももっと良い治療を目指すのか、国民が、患者さん自身が選択しなくてはいけない時期に来ているのではないでしょうか?院内感染対策を充分に行い、完璧な治療をするのが最良だと言う事は分かっていますが、それには今までの何倍もの費用が必要になることを患者さんが、国民が、国や行政が理解しているのでしょうか?新聞記事で問題点を指摘するのは簡単ですが、実際の現場で問題を解決するのには簡単なことではありません。完璧を求める事も重要でしょうが、患者さん自身がコストを含めた納得できる妥協点を見つけ事も重要だと思います。
私の矯正歯科は自由診療で必要は費用は患者さんに負担して頂いていますから、私の判断で院内感染対策も使用器具の選択も自由に出来ます。だからこそ患者さんから頂いた費用を無駄にすることのないように、全ての材料、作業を厳密に細心に吟味して無駄のない効率的な診療態勢を築かなければならないと改めて思いました。
記事は歯を削る時に使用するハンドピースという器械を本来患者さん毎に滅菌したハンドピースに交換するべきなのに、交換を行わず薬品で済ましている歯科医院が多く感染の危険があると指摘しています。厚生労働省の日本歯科医師会会員1,000人に行っアンケート調査によると「患者ごとに交換」が52%だったのに対し、「感染症患者とわかった場合に交換」「血液が付いた場合などに交換」「消毒薬で拭く」の交換しない歯科医も半数近くいました。
感染対策の重要性は歯科医師なら誰でも十分認識しているのに、なぜ患者さん毎のハンドピースの交換が行われないのでしょうか?その原因は一重にコストの問題です。ハンドピースの滅菌の手順は使用後に洗浄し乾燥させた上で滅菌パックと言われる袋に入れて、高圧蒸気家滅菌器(オートクレーブ)で滅菌するのですが、これの作業に要する時間は1時間以上です。これを診療時間中にする事は難しいので診療後に行う事になりますから、結局一日に歯を削る治療を行う患者さんの人数分のハンドピースが必要になります。ハンドピースの価格は10~20万円、それを小さな歯科医院でも20本近く購入し、その上熱による滅菌でハンドピースも寿命も短く1年もすれば全て交換する必要があります。それに加えて、滅菌作業に関わる人件費も考慮に入れるとハンドピースを患者さん毎に交換する事で発生するコストは零細企業である歯科医院にとっては死活問題と言っても過言ではありません。
感染対策が重要なのは分かっていますが、どこまで追究するのか見極めないと際限のないコストがかかってしまいます。怪我をして外科の外来で診察を受け薬を付けてもらうのと、手術が必要になり手術室で処置を受ける時を想像して見て下さい。外来なら医師や看護師は白衣を着てグローブをするくらいですが、手術室なら滅菌した手術着、ゴーグルにグローブ、履き物も滅菌した手術室専用の靴という出で立ちです。その時々で必要とされるレベルの清潔さを保っているのです。
さあ、そこで歯科における感染対策について考えてみましょう。歯科は雑菌の多い口の中での処置ですから、使用した器具は全て雑菌で汚れていまいますから清潔を保つ非常に大変です。おまけに内科と違って診察するだけもミラーやピンセット等の器具を使いますから消毒の作業は膨大になりますから、直接血液で汚染される可能性が少なく、かつ高価なハンドピースは薬液消毒等の簡単な消毒で済ませていたのです。しかし肝炎ウィルスなどが薬液消毒では死滅しないために、オートクレーブなどによる滅菌が必要性が叫ばれるようになってきたのです。
しかし、健康保険で支払われる歯科の治療費に滅菌にかかる費用が十分算定されているとは思えません。端的にそれが分かるのは歯科と医科の初診料と再診料の差です。医科の初診料、再診料はそれぞれは2,820円と720円に対して歯科は2,340円と450円で、初診料で480円、再診料で270円歯科の方が低いのです。机とペンだけで診察できる内科の方が、診察するだけでもミラーやピンセットなの滅菌が必要な歯科よりも初診料、再診料共に高いこの現実、結局健康保険制度ができた昭和30年代当時のいい加減な感染対策を前提とした保険制度のがそのまま引き継がれているのです。
ちなみに広島県歯科医師会の試算ではハンドピースの滅菌を含む院内感染対策費が患者さん1人当たり1,058円となっていますから、健康保険で支払われる初診料や再診料では大赤字です。この現状で歯科医に院内感染症対策を徹底させることは、「死ね」言っているも同然、厚労省のパワハラと言っても過言ではありません。
その他にも歯科の保険診療には理不尽なことが数多くあります。医科では外科的処置が減少し投薬が治療の中心ですが、歯科ははに自己再生能力がないために処置が治療の主体ですから治療に使う器具、機材が沢山必要です。歯を削るような切削器具は、メスと同じように本来使い捨てが基本ですが、保険診療でそんなことをしていたら、これも大赤字で歯科医医の経営は成り立たないと言われています。私は矯正歯科治療しかしないので今回改めて調べてみると例えば虫歯を削するダイヤモンドバーは600~1,000円なのに歯を削る保険の費用は1,360円にしかなりません。また私が虫歯の治療で一番大切でだけど、一番難しいと思っている神経を取って神経の入っている根管という管を削って拡大する時に使うリーマーという針のような器具は細い物から太い物まで6本前後使うのですがこれの一セットは約2,000円するのに保険の費用は2,280円です。常識的に考えてこれでまともな治療が出来るはずはありません。だから、歯科医師は器具を消毒して使い回しているのです。その結果、細いリーマー劣化して折れて根管の中に残ってしまうと言うようなトラブルも珍しく有りません。
ちなみにアメリカでは感染や器具の破損を防ぐため器具は全て使い捨てディスポーザブルが基本です。ですから治療費は当然高額です。先程の根管の治療は拡大した根管を無菌の状態にした上で樹脂で密閉して完了ですが、アメリカでこの処置は1,000ドル以上の費用がかかります。それなのに日本の健康保険で支払われる費用は10,000円にもなりません。その差は10倍以上、同じ治療が受けられるハズがないと考える普通でしょう。
しかし、アメリカでは国民皆保険制度がないので低所得層は虫歯になれば高額な治療費が必要な根管治療など行わず抜歯して入れ歯を作ります。口の中の状態も経済状態と同じように格差が顕著なのが格差社会が極まったアメリカです。
日本の健康保険の歯科治療はそこそこの治療費でそこそこの治療、それで満足するのか、費用を負担してももっと良い治療を目指すのか、国民が、患者さん自身が選択しなくてはいけない時期に来ているのではないでしょうか?院内感染対策を充分に行い、完璧な治療をするのが最良だと言う事は分かっていますが、それには今までの何倍もの費用が必要になることを患者さんが、国民が、国や行政が理解しているのでしょうか?新聞記事で問題点を指摘するのは簡単ですが、実際の現場で問題を解決するのには簡単なことではありません。完璧を求める事も重要でしょうが、患者さん自身がコストを含めた納得できる妥協点を見つけ事も重要だと思います。
私の矯正歯科は自由診療で必要は費用は患者さんに負担して頂いていますから、私の判断で院内感染対策も使用器具の選択も自由に出来ます。だからこそ患者さんから頂いた費用を無駄にすることのないように、全ての材料、作業を厳密に細心に吟味して無駄のない効率的な診療態勢を築かなければならないと改めて思いました。