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院長コラムで院長を知ろう!矯正歯科専門医 河合悟が思うこと。

文系学部は不必要?院長コラム

2015/08/01 

 文科省は2015年6月初旬、国立大に対し、「社会が必要としている人材の育成や地域への貢献を進めてほしい」として、文学部や法学部などの文系学部のほか、教員養成系学部などについて徹底的に見直すよう通知しました。その理由は、少子化が急速に進み、国際競争が激しくなる中で、理系学部のように「技術革新」に直結せず、将来に向けた目に見える成果がすぐには期待しにくい文系学部に財政難で予算が限られる現状では交付金を投入できないと言う事です。

 これに対して国立大側から反発の声が沸き起こり、従来からの国立大としての権益を守ろうとしている有名大学も有れば、交付金だよりのブランド力に乏しい地方の国立大学の中には早速、人文系学部の定員を減らし理系学部の定員を増やすようにした大学もあります。大学進学率が50%を越えた今、従来通りの大学教育のままで良いとも思いませんが、大学教育を文系学部と理系学部におおざっぱに分けて、どちらか社会にとって重要なのか、それに応じて国の予算を配分するという文科省の言い分にも疑問を感じます。その前に、そもそも大学教育とは何なのかをもう一度考えてみる必要があると思います。

 それでは高校までの教育と大学教育での違いは何でしょうか?高校生の頃に先生から高校までは教えてもらう勉強、大学に行ったら自分で考える勉強と言われたのを覚えていますが、分かったようでよく分からない説明です。

 私は、高校卒業後に歯科医師となるため歯学部に進学しましたので、目標は単純で歯科医師になることですから、大学での勉学は歯科医師として必要な知識と技術の習得が全てと言っても過言ではありません。教養科目も少しはありましたが、教える側も習う側もなおざりで、歯学部の教育は歯科医師養成専門学校と言った方がピッタリするくらいです。戦前の教育制度では、医師は医学専門学校、歯科医師は歯科医学専門学校で養成されていましたから、これは当然のことかも知れません。

 これに比べて、今回問題になっている文系学部は職業訓練を目的とした教育を行う場ではなく、歴史や文学等の人類の過去の遺産を学び、それを元に人類の未来について考えることのできる人間を育てること、つまり教養の高い人間を育てる事に有るように思います。 文系の学部と理系の学部での教育大きな違いを目の当たりにしたのは、私子供が文系学部に進学し、その授業内容や試験内容を聞いた時でした。そして、理系の大学での勉強は高校までの勉強と変わらず知識の習得がメインですが、文系では知識に基づいた自分なりの理論の構築とその表現方法の習得だと感じました。もっと簡単に言えば、理系では答えは一つ、真実は一つでそれを求める、回答することが勉強ですが、文系では自分自身の考えですから、答えは多様で、真実は一つではないと言うことです。言い換えれば、先生が答えを教えるあるいは知っているのが理系であり、先生と答えについて議論して、お互いを認め合うのが文系の学問、勉強だと思ったのです。

 大学教育は最もレベルが高い教育で、その教育を受けさせるのに課程もですが社会も大きな負担をしている訳ですから、その教育を受けた人は本来、社会を動かす指導的立場に就きより良い社会の実現に貢献してもらわなくてはなりません。その為には、過去を学び未来に向かって何をすべきなのかを考え、それを人に伝え、リードする力が必要です。実はそれを養うのが文系の教育なのではないでしょうか?

 そして、自分が受けてきた理系の歯学部の教育は果たして大学教育と呼べる物だったのか?と言う疑問も生まれました。幸いにも私は大学院に進み、実験、研究を通してやっと自分自身で考え結論を導き出す事を学び、論文や学会発表で自分自身の考えを人に伝える技術を身につけることができました。しかし、大学院に進んでいなかったら今のように院長として、小さいながらも組織のリーダーとしてやって行けたとはとても思えません。

 大学、大学院と10年間にわたり大学に在籍し、その後も教員として11年間、理系である歯学部に在籍した私ですが、大学教育の原点は文系学部にあると思うのです。大学教育を受け、社会のリーダーとなるなら、理系に進むにしても、まずは文系学部で教育を受け幅広い教養を身につけ、自身で問題を解決する習慣と自分の考えを人に伝える力を身に付けるべきでしょう。

 文科省は 短期の成果に目を奪われる余り文系学部の重要性を見失うなってしまっているのでしょう。真の大学教育を行うためには、文系学部の縮小ではなく、文系学部を充実し文系学部の科目を修得した上で理系にも進路を変更できるような教育システムの改革が重要です。最近では、理系学部の学生の大学院への進学率が上昇して、高校卒業後大学4年間、大学院2年間の計6年間を大学に通う学生が多くなっている事を考えれば、文系学部で2年間大学生としての教養を身につけ、理系学部に進むとか、あるいは文系学部を卒業後に改めて職業訓練のための専門学校に進むとか、複数の教育路線を選べるシステムも一考に値すると思います。

 グローバル化の中で優秀な人材の争奪戦は国境を越え世界中で繰り広げられていますから、日本の未来を支える優秀な人材を育てる教育の重要性は増すばかりです。しかし、急がば回れの言葉ではありませんが、目先の成果に惑わされることなく、 幅広い教養と専門知識を備えた世界で尊敬される人材を育てる事こそが、日本の明るい将来の為に必要な大学教育だと思います。
 

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