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院長コラムで院長を知ろう!矯正歯科専門医 河合悟が思うこと。

健康保険制度の不合理院長コラム

2014/02/01 

 昨年11月に九州厚生局による個別指導を受けました。個別指導は、保険医療機関の診療内容や健康保険請求が健康保険療養規則に則していない疑いがある場合に行われます。当クリニックの場合、なぜ個別指導を受ける事になったのか、その原因はハッキリしませんが、近年、毎月の保険請求の1件(患者さん一人)当たりの請求額が県内の平均額を20%以上越えていると個別指導の対象となることになってので、この点で個別指導対象医療機関に選ばれたのかも知れません。矯正歯科のほとんどは健康保険対象外ですが、顎変形症や口蓋裂等の遺伝性疾患に伴う不正咬合が健康保険の給付対象となっており、一般歯科の処置に比べて治療時間がかかることや装置が高額なことから、どうしても保険請求高は高くなってしまいまから、矯正歯科が個別指導の対象となる事は避けようがありません。

 2ヶ月後の先月末になって指導の結果が知らされましたが、大きな問題はなく無事個別指導を乗り切ることができました。それはそれで良かったのですが、今回の個別指導を通じて、健康保険制度について色々と考えさせられることが沢山ありました。

 一番大変で、無駄が多いと感じたのは書類作成の多さです。今回提出を求められたカルテの中には、初診から9年間経っているものがあり、カルテ以外にの指導の記録、検査結果の用紙や、紹介状の控え等々全ての書類を揃えるとその枚数は数100枚。これだけの様の書類が1枚の紛失もなく保存しておくことの大変さは想像以上です。

 例えば、歯科衛生士実地指導という保険請求項目がありますが、それは歯の汚れを染め出して汚れが残っている部分を記録し、その割合を算出、そして歯みがきの指導をして、指導内容を患者さんに書面で渡し、記録と患者さんに渡した控えを保存する事とで保険請求ができる事になっています。その上、その患者さんの散ろうが完了してから5年間の書類の保存義務があるのです。そして、その金額は800円。これで採算がとれるでしょうか?今まで深く考えず、保険請求の手引きに従いやって来ましたが、書類の作成や保管にかかる時間と費用を考えると、患者さんにきちんと指導しても保険請求しない方がよほど経済的合理性に合致しています。

 保険請求をやめることで、その時間を患者さんの治療に費やすことができ、治療結果の向上や患者さんの満足感をより高めることができるようになります。健康保険の治療は、国が定めたルールに従わなくてはいけませんから、治療する医師や歯科医師が不必要を思う検査行う必要があったり、あるいは検査や指導を行った証拠を残すために必要以上の書類を作成する事になっています。

 お役所の仕事ならば書類を作成する事が大事なことも分かりますが、医療の現場においては書類よりも、必要なのは患者さんとの信頼関係、書類に向き合うよりも患者さんと向き合うことが良い治療結果を得るには重要なことです。

 一般の医師や歯科医師のほとんどは、大学卒業後ずっと健康保険の治療だけをして来ているのでこれが当たり前で、健康保険の治療に疑問を抱かないのかも知れませんが、私は自費診療である矯正治療を主体に行ってきましたら、健康保険の治療に大いに疑問を感じてしまいます。

 本来、同じ治療結果を得るのであれば少ない検査、少ない処置、そして短い治療期間の方が優れているのが当たり前ですから、報酬も当然多くなるのが普通です。ところが、健康保険の治療では、反対に多くの検査を行い、沢山の処置をして、治療期間が長引いた方が報酬が多くなる仕組みです。一般の経済活動では、効率を追求して利益を上げるのが良い企業ですが、健康保険ではそうは行きません。そこに大いなる矛盾を感じるのです。

 矯正治療に携わって約30年、今までずっと出来る限り無駄を省き、短期間で最良wの治療結果を得るにはどうすれば良いかを追求してきました。それが時間的にも経済的にも患者さんの負担を軽減することとになり、より多くの患者さんに矯正治療を受けていただけ、矯正治療が広く普及する道だと信じ努力してきたのです。

 しかし、この考えが健康保険の治療では通じません。無駄を省くことよりもルールに従うことが重視されるので、医師の裁量で検査を省くとか、処置を省くとか、患者さんと相談の上、書類を省くことが許されないのです。先日、群馬県から転勤で来院された顎変形症の患者さんを診察し、近々手術可能なのでその時にレントゲン等の検査を行うので、転医の時の検査を省くことにして保険請求したところ、検査を行わないで治療の継続はできないと保険請求が却下されてしまいました。仕方がないので、次の月に検査を行い治療を継続することにしましたが、治療を引き継ぐ私が不必要を判断したのにも関わらず検査をさせるとは無駄としか言いようがありません。

 医療費抑制が叫ばれ、医療費の効率化が必要なのは誰もが分かっていることです。医療現場の医師や医療従事者裁量権を与えると医療費の膨張に繋がると国は考え、細かい規則を作り医療の内容まで制限を加えてきました。しかし、現状はどうでしょう、医療費は膨張し続け、医療費抑制の効果は全く上がっていません。

 私は、その原因が医療現場の裁量権を制限して、医療従事者自信が医療の効率化を計ろうとする気持ちを削いできたことによるものと思います。国の健康保険制度を作る官僚が実際に医療に携わる医療従事者を信じて、その裁量権を拡大していくことこそが無駄な検査、処置、投薬を減らすことに繋がり、結果として医療費を抑制することになると思います。

 裁量権の拡大とは実際にはどう言う事かと言うと、疾病ごとに月々の治療費を決め、治療内容に関わらず治療費を同じにするのです。治療費が同じであれば、生活習慣の改善や患者の努力で治療できるのであれば、処置や投薬が減っていくの当然です。それに合わせて月額の治療費を減額していけば、当然全体の医療費が抑制されています。医療機関は決められた医療費の中で利益を出すために、必要な検査や投薬を減らし医師の診断能力の向上や患者指導の強化で医療の効率化を計っていくでしょう。患者の立場からしても、検査や投薬が減り、医師やスタッフによる診察や指導が充実するのですから良い事づくめです。

 今回の個別指導は、私とスタッフにとって非常に大変な試練でしたが、健康保険の治療について考える良いきっかけになりました。そして、医療の本質である、必要最小限の治療で最良の治療結果を得るためにどうしたらよいか?と言うことを基本に、健康保険適応の治療の内容を見直すことに致しました。健康保険の請求に左右されることなく、事務的無駄を減らし、患者さんの治療によりエネルギーや時間を費やすことができるよう、医療の原点に立ち返って診療を行っていくつもりです。

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