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院長コラムで院長を知ろう!矯正歯科専門医 河合悟が思うこと。

子供の歯を守る院長コラム

2017/06/01 医療・健康

5月23日の産経新聞に「貧困などで口腔崩壊、児童346人 兵庫県、「要受診」6割超が受診せず」との記事が載っていました。内容を見ると兵庫県保険医協会の調査で兵庫内の学校の歯科検診で、虫歯などで「要受診」と診断された児童・生徒のうち、65%が歯科を受診していない可能性のあるとのことでした。保険医協会はほとんどの自治体で中学生以下は医療費無料が制度化されているが、「その制度を知らず、貧困などの理由で受診させていない家庭があるようだ」と、虫歯が貧困等の家庭環境が原因の一つであると述べています。

 これに対して、5月26日の日経新聞では、文部科学省の学校保健統計調査によると、虫歯になったことがある小学生(処置完了者を含む)の割合のピークは1979年(94.8%)で、2016年度は48.9%まで低下していると、子供の虫歯が大きく減っている事を報じています。同時に記事の中では地域格差が大きく、県を挙げてフッ化物洗口に取り組む新潟県の虫歯罹患率の少なさを例に歯科保健指導の重要性を説いています。

 この二つの記事を見ると、全く正反対の内容と思われそうですが、多分、今の社会が様々なところで二極化が進んでいると言われているのと同じように子供の虫歯も二極化が進んでいる事を表しているのでしょう。私が診察している子供達に関しては、子供の虫歯は激減していると言うのが実感です。樋口矯正歯科クリニックでは1999年から中学生以下の患者さんの初診時検査時にカリエスリスク検査を行っていますが、その当時と比べると歯垢の付着が減り口腔内清掃が行われている様になりましたし、細菌検査でもミュータンス菌(虫歯菌)、ラクトバチルス(口の中が汚れていると増える細菌)も明らかに減少してきています。近頃は細菌検査で要注意と診断される患者さんは滅多にお目にかかることはありません。わざわざ家から遠い天神の矯正歯科まで通院して頂けると言う事は、それだけ歯に関心が高いご家庭と言う事ですから、歯みがきも小さい時からしっかりされているのだと思いますが、それでもこの変化には驚かされます。

 ですから、私の感覚としては虫歯は過去の病気となりつつあると思っていましたが、現実には産経新聞の記事のように虫歯で将来苦労するであろう子供達がまだまだいるのに驚き、心が痛みました。家庭の環境を子供達が選ぶことは出来ませんから、何とか社会全体の仕組みで子供の虫歯を減らすことが必要でしょう。そうなると一番大切なのはやはり教育、虫歯の原因や予防方法を親だけで無く、子供教育に携わる先生方にまずは理解して頂く事だと思います。

 それは当然だと思われるかも知れませんが、実際にはまだまだ虫歯に関する知識が十分とは言えないのが現状です。クリニックを受診される患者さんの多くは、自宅の近くの小児歯科や一般歯科を定期的に受診され検診を受けておられ、フッ素の塗布やシーラント(奥歯の溝をプラスチックで多く事で虫歯を防ぐ処置)をされています。虫歯を防ぐ処置はされていますが、虫歯の原因や予防の為の基本的な知識を教えられていないのがほとんどです。歯科医院でも処置を行うだけで知識教育や指導がなおざりですから、教育現場では教育、指導が一層不足しているのは明らかです。

 それを変えるには、まず虫歯が治らないやっかいな病気である事を知ってもらう必要があります。虫歯になり歯科医院で治療すれば一般的には治った言うのかも知れませんが、実際の所、自分の歯は削られ人工的な物に置き換わっただけで、治ったと言うよりは補われたと言う方が正確です。虫歯の治療後には必ず自分の歯と治療した人工的な物の栄目があり、最初は接着剤で接着されていますが、所詮は接着剤ですから、いずれは外れ、そこに汚れが溜まり、また虫歯になります。これを歯科では二次カリエスと言いますが、これを避けることは出来ません。つまり一度虫歯になれば何度も二次カリエスになり、その度に歯を削りますから、いずれは歯がなくなると言う事です。つまり現在の虫歯の治療は延命処置に近いと言う事なのです。

 しかし虫歯は治らないやっかいな病気ですが、反対に100%防ぐ事が出来る病気でもあります。風邪をひくのを100%防ぐのは不可能ですが、虫歯なら可能です。虫歯は口の中のミュータンス菌が砂糖を分解して酸を作る事で唾液が酸性になり、酸性唾液で歯が溶けてできます。ですから、砂糖が口の中に無いか、ミュータンス菌が口の中にいなければ虫歯にはなりません。一度口の中に定着したミュータンス菌をなくすのは簡単ではありませんから、一番手っ取り早いのは砂糖をなくすことです。砂糖を食べないと言うのは不可能に近いですが、酸性になった唾液も唾液の作用で時間と共に中和されますから、奸悪をかけて食べれば大丈夫です。砂糖の摂取は量ではなく、回数が問題なのです。砂糖が口に入るたびに唾液は酸性になりすから、チョコチョコ砂糖がお菓子を食べれば唾液が中和される時間が無くなります。ケーキワンホールとスポーツドリンク一口では砂糖の摂取量は大違いですが、虫歯のリスクとしてはどちらも同じです。つまり砂糖の摂取制限ではなく、食べ方を変える事が重要です。お菓子をテレビをながら、勉強しながら食べる、「ながら食い」をやめ、砂糖を口に入れるのは食事とおやつの時間と決めれば、良い訳です。そして、水分補給はお茶か水、スポーツドリンクは本当に運動する時だけ、ある意味規則正しい暮らしが虫歯予防にもなるのです。そう考えると虫歯は生活習慣病の一つです。

 虫歯予防と言えば歯みがき、それが普通です。歯みがきは細菌の塊である歯垢(プラーク)を減らすことで口腔内のミュータンス菌を減らし唾液が酸性になるのを防ごうとするのですが、細菌を減らすには時間がかかりますから、砂糖の食べ方を変えるのがまず第一。 シーラントについては確かに溝を塞いで酸性唾液を溜まりにくくしますから、永久にシーラントが外れないなら非常に有効です。しかし、そこには罠が潜んでいます。シーラントも接着されているだけですから、いずれ外れます。その時、まずは一部分が浮き上がりシーラントの下の部分が清掃不良になり虫歯になってしまいます。そして、シーラントが外れて虫歯が発見された時には深い虫歯となって、大きく歯を削ることになってしまった症例を沢山見てきました。シーラントをすると歯の状態を見ることができなくなりますから、定期的に歯科医院に受診しているなら、フッ素を塗布して歯質を強化しながら歯の状態を見えるようにシーラントをしない方が虫歯のリスクは少ないように思います。反対に家庭環境等で定期的な管理が出来ないようであれば、積極的にシーラントの処置をする事で虫歯のリスクを減らすことが出来るのも確かです。

 私は矯正治療を希望して受診された子供の患者さんの親御さんに歯並びは、大人になっても治せますが虫歯は一度なったら治せないので、まずは虫歯にしないようにと前述の虫歯の原因と予防について説明しています。治療や処置も大切でしょうが、子供の歯を守るには説明、指導、教育が何より大切だと思います。教育現場での虫歯に対する正しい知識の浸透が子供の歯を守る第一歩ではないでしょうか。

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