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院長コラムで院長を知ろう!矯正歯科専門医 河合悟が思うこと。

やり甲斐のある人生院長コラム

2012/07/03 

 先日、熊本現代美術館で開かれていた「葉 祥明 展 -地平線の彼方へ- 」 に行ってきました。葉祥明さんを知ったのは、葉祥明さんが医局の後輩の翁先生の叔父様にあたり、翁先生からカレンダーや絵はがきを頂いた事からでした。葉祥明さんの絵は、淡い色使いで安らぎを覚えるもので、その後何枚かのリトグラフを手に入れ家に飾っていました。今回の「葉祥明展」は、今までになく多くの作品が展示されると聞いて言ってみた訳です。

 今回の「葉祥明展」では、多くの作品と共に作品に関する解説を読むことで葉祥明さんが絵や絵本にメッセージを込めているとがよく分かりました。メルヘンを感じさせる可愛い絵の中にも自然や環境そして生きることの意味など多くのメッセージが込められていたのです。私は、葉祥明さんについては、画家であり絵本作家である事くらいしか、知りませんでしたが、今回の展示を見て葉祥明さんの創作活動の出発点が絵本作家であり、また原点が絵本、つまり人にメッセージを伝える事にあるのだと理解しました。

 その中で強く印象に残ったのは「地雷ではなく花をください」と言う作品についてです。NPOの「難民を助ける会」の地雷廃絶キャンペーンのために依頼された作品で、どんな内容にして良いのか大変悩み、その時偶然聞いた子供達の話から発想を得てできあがった作品だそうです。この絵本の収益は地雷除去の費用として寄付され 絵本1冊で、カンボジアの10平方メートルの地雷原がきれいで安全な土地によみがえるのです。

 そして、この作品が完成した時、葉祥明さんは「自分が絵本作家になった意味が分かった」と言われたそうです。自分の創作活動が直接、世界の子供達の役に立つ事を実感したのでしょう。それまでは、絵や絵本の中に様々なメーセージを込めることで、世界の平和や環境の保全などに貢献したいと念じていても、その結果を直接感じることは難しかったのでしょうが、それがこの作品では現実の目に見えるものとして実現し、実感した訳です。

 私にもこれと同じような経験があります。それは10年近く前クリニックの経営が苦しかった時に、それまで治療したことがなかった60代の歯周病を持った患者さんの矯正治療をした時のことです。矯正治療が終わった後に「食べ物が美味しく食べられるようになり、食事が楽しくなりました。」と言われ、その時、初めて「本当に矯正歯科医になって良かった。自分が矯正歯科医になった意味が分かった。」と思ったのです。

 大学病院に勤務していた頃からずっと子供達や若い患者さんばかりの矯正治療を行っていましたから、治療が終わった後で患者さんから言われるのは「よく咬めるようになった」ではなく「きれいになった」と言う言葉ばかりでした。実際は、正しい咬み合わせになりよく咬めるようになっているのですが、若くて健康な患者さんはそんなことを感じてはくれません。治療している私も頭では、「矯正治療はよく咬める正しい咬み合わせを作り、自分の歯で一生食べ、健康に生きいくための治療」だと考えていましたが、それを現実に実感することはありませんでした。それで心の片隅に、「自分は何のために歯科医になったのか?」、「自分のしている矯正治療は本当に医療と言えるのか?」と言う疑問?わだかまり? がありました。

 10年前のその当時、歯周病を持つ高年齢の患者さんの矯正治療はほとんど行われておらず、治療を始めるに当たり色々文献等を調べてみると、歯周病の患者さんへの矯正治療は禁忌、つまり治療してはいけないと書いてあるものがほとんどでした。どうしても矯正治療を行うならば、完全に歯周病を治療した後でここなうべきと書いてありました。

 しかし、私は過去の経験から何となく高年齢であろうが歯周病だろうが矯正治療は可能ではないかと何となく思っていましたから、歯周病に治療を行う事もなく通常通りに矯正治療開始して、試行錯誤しながらではありましたが何とか矯正治療を終えたのです。そして、その患者さんの歯周組織(歯肉や歯を支える骨)の状態が、矯正治療を受ける前とは比べものにならないくらい健康な状態になり、動揺していた歯がしっかりとして、きちんと食べ物が咬めるようになることを経験したのです。咬み合わせが正常になった事で、歯周組織の回復力が増進し健康な状態に改善したわけです。

 そしてその時に聞いたのが「食べ物が美味しく食べられるようになり、食事が楽しくなりました。」と言う患者さんからの言葉だったのです。

 心のもやもやが晴れ、「自分が矯正歯科医になった意味が分かった」のです。矯正治療で人を健康に、そして幸せにする、それが自分の生きる意味、神様が自分に与えて下さった使命だと強く感じたのです。

 それ以来、私は今まで以上に自分の仕事、矯正歯科にやり甲斐を感じ、心の底から矯正歯科医になって良かったと思うようになりました。その上、歯の健康のための矯正治療を追求し続けたことでクリニックの経営も安定し、本当に充実した毎日を送ることができるようになりました。

 葉祥明さんや私が仕事を通じて自分の生きる意味、存在意義を実感したのは、自分自身が人の役に立った事を現実として目にしたことからです。つまり人は自分のためにではなく、他人の役に立った時、自分自身の生きる意味、存在意義を感じるのです。有意義なやり甲斐のある人生は、人の役に立つ事を追求する事から始まるのではないでしょうか?

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