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院長コラムで院長を知ろう!矯正歯科専門医 河合悟が思うこと。

医療は必要最小限院長コラム

2012/08/09 

 先日大学病院の矯正歯科で診断を受けた患者さんが、セカンドオピニオンを聞きたいと受診されました。開業医で診断を受けた患者さんがセカンドオピニオンを聞きに大学病院を受診する事はよくあることでしょうが、反対に大学病院で診断を受けた患者さんが開業医にセカンドオピニオンを求めることは珍しい事なので、どんな難しい症例なのかと心配しながら診察させて頂きました。

 15歳の女性で「出っ歯」を主訴としており、かみ合わせは出っ歯(上顎前突)だけでなく上下の前歯が咬めていない状態(開咬)でした。大学病院の治療方針は、インプラントアンカーと呼ばれる金属製のネジを数本骨の中にねじ込み、そのネジを土台(固定源)にして歯を動かすという方針でした。患者さんとご父兄がこのインプラントアンカーという方法にリスクを感じ、普通に矯正装置を装着するだけでは治療できないのかと言う疑問からセカンドオピニオンを聞きに受診されたのです。

 私は、患者さんが治療に協力してくれればインプラントアンカーを使う必要はなく普通に矯正治療を行えば十分かみ合わせを正常にすることは可能と説明しました。インプラントアンカーのリスクはそんなに大きいとは思いませんが、基本的な技術を習得した矯正歯科医であれば、それを使わなくても従来からの方法で十分治療可能なはずです。インプラントアンカーを使えば、術者の治療操作は簡単になり、治療に対する患者さんの協力の必要性も減るのかも知れませんが、それだけのために多少なりともリスクがあり、費用も余分に必要とするインプラントアンカーを敢えて使う必要はないと思うのです。私も奥歯をなくして固定源となる歯がなく、他の方法では歯を動かすことが出来ないような場合にはインプラントアンカーを使いますが、それは本当にまれなことです。

 最近はインプラントアンカーが結構手軽に出来ることと、矯正の治療費とは別に費用を請求しやすい事から、必要以上にインプラントアンカーが多用されているようです。私のクリニックに転医されてこられた患者さんにもしばしばインプラントアンカーが使われていましたが、そのほとんどは私の治療には不必要で撤去してしまいました。

 しかし、私は何でもかんでも外科的な処置あるいは患者さんの体に負担が大きな処置が悪いと言っているのではありません。前述の患者さんに関しても、入院して全身麻酔による手術が必要な外科的矯正治療が必要かも知れないと説明したくらいです。それは、問診で患者さんが睡眠時間を十分とっているのにも関わらず昼間に眠気を感じることがしばしばで、おまけにイビキをよくかく、そして姿勢が猫背で首が前に傾斜している等々から、睡眠時無呼吸症候群が疑われたからです。下顎が後方に位置している上顎前突の場合には、どうしても気道が狭くなり睡眠時無呼吸症候群を発症し易いのですが、この場合の治療は単に歯を動かして前歯の出っ歯を治療しても本質的な改善にはなりません。下顎を手術で前方に移動して気道を広くしてこそ、正常な状態に近づくのです。若くて健康な時には筋肉も強く呼吸する力も強いので睡眠時無呼吸症候群になる可能性は少ないですが、年齢が上がると筋力の衰えと同時に太ることで首の周りに脂肪が付き外側からも気道を圧迫するようになって睡眠時無呼吸症候群になる可能性が増していきます。15才で睡眠時無呼吸症候群の兆候があるのですから、中高年になった時を考えると手術によるリスクを冒しても外科的矯正治療を受けた方が良いかも知れないのです。

 歯科医院の経営環境は非常に厳しく、各医院では収益を上げるために知恵を絞る毎日ですが、それがともすれば誤った方向つまり患者さんのために重点を置いたのではなく、医院のための治療、過剰な診療に向かっていないかが気がかりです。夏休みになり受診された小学生の患者さんは、前歯のすき間を気にして家の近くの矯正歯科を受診したところ、急いで矯正装置を付ける必要がある、費用は30万円と言われて驚き、これまたセカンドオピニオンを聞きに来られたのでした。まだ永久歯の前歯が2本しか生えていない時期で、大きな犬歯が生えてくるまでの間は前歯にスキ間があるのは正常なこと。アグリーダッキングステージと言って、歯科医師国家試験にも出るような歯科医にとって常識的なことです。それを患者さんが気にしているからと言って矯正治療をするとはどんな考えなんでしょうか?今の状態をよく説明して、今の段階では積極的に治療を行う必要が無いことを患者さんに理解してもらうのが矯正歯科医の勤めと私は思います。

 歯科だけでなく医科についても同じです。血中コレステロールが心配と言えば高脂血症の薬、骨密度の低下が心配と言えば骨粗鬆症の治療薬と次々に薬を処方していきます。本来なら、食事指導と生活習慣の改善そして適度な運動等で十分改善可能なのですが、患者さんも自身の努力の必要のない薬に頼り、医師は指導よりも収益になる薬や処置を選ぶのです。国民皆保険制度で医療費の負担が比較的少ない日本では、自分で健康を守と言うよりも医療に頼り、より高度な、より難しい治療を患者さんも医師も選ぶ傾向にあるような気がしてなりません。

 そしてそれを一層助長させるのが、医療業界を取り巻く厳しい経営環境です。医療機関は生き抜くために許容される最大限の医療を行う事で収益を上げようとします。そして患者さんは、出来る限りの薬をもらい、出来る限りの処置をしてもらうことで安心するのでしょう。

 しかし、それがが本当に健康に生きることに役立っているかと言えば大きな疑問です。薬を飲めば肝臓や腎臓に負担をかけますし、手術や処置は身体に侵襲を加える事ですから、いずれもできれば避けた方が良い訳で、要は最小限の処置や薬で健康を回復するのが一番良いに決まっています。しかし最小限の医療で最大限の効果を発揮するには、治療する術者は効率的な治療法、技術、知識の習得とそれを説明し患者さんの心をコントロールして自ら積極的に治療に参加させる努力が必要です。治療を受ける患者さんも自己管理に努め、お医者や薬にできるだけ頼らず自分の健康は自分で管理するという覚悟が必要です。

 そして、最小限の医療を目指すことは、増大する社会保障費の抑制にもなり子供達の明るい将来、日本の明るい未来に繋がっていくのです。

 患者さんと医療従事者が手を取り合って、必要最小限の医療を目指しませんか?

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